Features Vol.01

GINZA SIXの立ち上げに
込められた想い

03

古様な素材を提案することで、
一番新しいプレミアムラウンジを

PREMIUM LOUNGE
「LOUNGE SIX」

新素材研究所
(杉本博司・榊田倫之)

Features Vol.01

03

古様な素材を提案することで、
一番新しいプレミアムラウンジを

PREMIUM LOUNGE
「LOUNGE SIX」

新素材研究所
(杉本博司・榊田倫之)

杉本博司と榊田倫之とのユニット「新素材研究所」

榊田:日本には1000年以上の文化のなかで培われてきた素材や工法があるのですが、今の時代に建築の仕事をしていると、どうしてもメンテナンスがしやすいものとか、寿命の長い素材をカタログから選ぶという現代的な手法に、一気に転換されようとしている状況を感じずにはいられません。

そんななかで、2008年に現代美術家の杉本博司と共に立ち上げた「新素材研究所」のコンセプトは「古様な素材を提案することが、今一番新しい」という確信を持って、アイロニカルに新素材研究と言っておきながら、実は古様な素材を研究し提案することを設計理念としています。ただ一方で、単純に数寄屋的や社寺的ということではなく、やはり現代の気分というのがあるので、素材や工法は古来であるけれど、納め方は現代的なディテールで構成していきます。

私は20代の多くを京都の建築家・岸和郎のもとで、近代以降の建築の様式や建築家と社会の関わり、建築家としてあるべき姿勢について学ぶことができました。ですから、建築家としての自分の骨格自体は岸に作ってもらえたと思っています。一方でアーティストでありながら若い頃から古美術商としてのキャリアも経てきた杉本と出会うことによって、日本の文化をエッセンスとして組み込めるようになったわけです。

杉本自身、私と共に新素材研究所を立ち上げるまでは、建築もインテリアも本人が現場に立ち会い、言わばセルフビルドでやってきていました。アート作品同様、そのコンセプトは非常に明解です。ただ、今回のGINZA SIXのように仕事として時間も予算も限りがあるとなったとき、杉本のパートナーとして、彼の主題やアプローチをどう解いて、空間に落としていくか。新素材研究所では、杉本と私がお互いにそんな明確な役割を持って、設計活動に取り組んでいます。

プレミアムラウンジ
「LOUNGE SIX」のポイントは
「素材」

GINZA SIXでは建築ではなく、プレミアムラウンジである「LOUNGE SIX」のインテリアデザインを手がけていますが、新素材研究所のテーマからぶれずに「日本的なものと現代をどう再編集していけるか」という感覚で空間を解いています。一番のポイントはやはり「素材」に尽きます。

エントランスで顧客の方々を迎えるのは横幅10メートルにもなる、黒漆喰による外壁です。下塗りまでは複数の職人を入れてやるのですが、フィニッシュは熟練の左官職人が一気に仕上げます。黒漆喰はコテの押さえ方によって色のムラが抽象絵画のようになったり、職人の手技を感じてもらえる見せ場になるはずです。

そこから、大正時代に看板建築などに使われたブリキを貼った鉄板の扉を入ったレセプションフロアの床には、1912年から78年まで京都を走っていた市電の下の“電石”を敷きつめました。言ってみればアンティークなのですが、集めていかないと数が揃わないので、「見つけたら、とにかく買う!」。他の建築事務所とスキームが決定的に違うのは、そういうところだと思います。

レセプションエリアの奥にあるメインルームは、開口部の少ない空間で買い物をされた顧客の方々に開放感を感じてもらいたいと思い、自然光が入るようお願いをしました。結果、大きな面にわたる窓には、新素材研究所のシグネチャー的な意匠でもある縦桟(たてざん)の障子を配しています。

また、「LOUNGE SIX」に併設する個室との境は引き戸にして、杉や檜など針葉樹の仲間である鼠子(ネズコ)の木のへぎ板を、胡麻竹(ゴマダケ)で上から押さえたディテールをあしらいました。へぎ板とは木のブロックに刃を入れて目に沿って裂いたものを差しますが、よく茶室の天井などに使われる素材で、今は買う人間がいないので、職人がほとんど残っていません。胡麻竹は茶室のにじり口などに使われる素材です。いずれも日本的なスケールで使われてきた素材を、現代のスケールに合わせて使っています。

ほとんど特注デザインの家具はユニークさを追求

家具に関しては、ほとんどを特注でデザインさせていただきました。ラグジュアリーなラウンジとなると通常はイタリアの高級家具が置かれていて、シートが深めで、フェザーが入っていて座り心地がいいというパターンなどが少なくないと思うのですが、今回大事にしたかったのはユニークさです。

メインルームに置かれる「ヘリコイドソファ」は、やはり新素材研究所がインテリアと家具を手がけた表参道のカフェ『茶洒 金田中』の「ヘリコイドチェア」がヒントになりました。「ヘリコイドチェア」は、杉本の作品に三次関数の数式を表現した明治期の数理模型と機構モデル群を撮影した写真シリーズがあって、その螺旋(ヘリコイド)を描く模型から関連付けた片肘タイプの椅子です。「ヘリコイドソファ」ではこれをもう少しゆったりとしたサイズで、文字通り、ソファとしてデザインしています。

さらに、2015年に惜しまれながら取り壊されたホテルオークラ東京の本館ロビーにあったテーブルセットもヒントにしました。上から見ると椅子が梅の花びらのように見立てられていたのですが、「ヘリコイドソファ」も丸テーブルとセットになったとき、どこか花のような印象を与えるように意識しています。ただ、現代人のシートハイトに合わせて、足元をスレンダーにしてソファ部分にボリュームを持たせるなど、プロポーションには現代的なエッセンスを入れました。脚の素材には宣徳(セントク)メッキと言って、ふすまの手かけなどに使われる素材を使いました。研究所では古い風合いの色を愛でて“古美色(こびしょく)メッキ”と呼んでいますが、これも職人が少なくなっている技の一つです。

そんな総じて空港にあるようなVIP向けのラウンジとは全く違うアプローチの空間が、顧客の方々の目に新鮮に映ってくれることを願います。

(2016年9月インタビュー)

Interview and Text by Yuka Okada / Photographs by Daisuke Akita

銀座遠望
杉本博司

私の実家は戦前銀座二丁目で創業した銀座美容商事という美容品を扱う問屋を経営していた。戦後は御徒町に移ったが、銀座は子供の頃から慣れ親しんだ街だった。母親とは時々不二家の洋食を食べにいったが、週末は着飾って家族でニュートーキョーの中華料理を食べに行った。ニュートーキョーの窓辺から眺める数寄屋橋下の水面に移るネオンの輝き、今は首都高に覆われその風情は無い。私がアーティストとして頭角を初めて現したのも銀座だった。小学校4年の時、私は銀座松坂屋の屋上から服部時計店方面を見た絵を描き、子供絵画コンクールに出品したのだ。その絵は見事入賞を果たし、世界巡回展に展示され、そのまま帰って来なかった。コンクール授賞式は護国寺近くの講談社本社で開かれ、私は晴れの表彰状を受け取ったのだが、私はその時、その大名庭園風の庭に感銘を受けたのだ。私は大人になったらいつかこんな庭を造ろうと思った。模型少年だった私は、その庭を巨大な自然を模した模型だと思ったのだ。その後私は同じ世界の模型化である写真へと興味の対象を移していくことになる。その庭も首都高6号線となって消えてしまった。こうして私が思いでの地の一画に再びアーティストとして関れるのも不思議な因縁で、私は先祖帰りしたような気分でいる。

銀座は土地柄が美人だ。その地へと赴くとき、人々は着飾って出かけた。美人に厚化粧は向かない。素肌にうっすらとひと刷の白粉(おしろい)。これがこの度のGINZA SIXの化粧方針だ。「New Luxury」とは豪華を隠すことだ、豪華さをひけらかすことが20世紀までの豪華の世界スタンダードだった。しかし我が国の伝統的な価値観ではそれは「野暮」と称されてきた。利休のいう「名馬を藁屋に繋ぎ止めたる風情」これが「粋」というものだ。粗末な茶室で名椀を使う、というのもこの感性の延長線上にある。しかしここで重要なのは粗末を装いながら実は手の込んだ造作を演出する点にある。いわば金持ちが貧乏人を装う、この美意識は転び様によっては洗練か嫌みの境界線上にある。名人が危うきに遊ぶように、時代の新しい感性は常に反動の揺り戻しに晒される。

銀座の土地柄を美人に保ち続けること、それも日本の伝統的な美意識に則って。これが私達に課せられた使命だ。

Text by Hiroshi Sugimoto

杉本博司
現代美術作家

1948年東京生まれ。1970年渡米、1974年よりニューヨーク在住。徹底的にコンセプトを練り上げ、8 x 10インチの大型カメラで撮影する手法を確立。精緻な技術で表現する作品は世界中の美術館に収蔵。2008年新素材研究所設立。2017年には改装を手がけたMOA美術館(熱海)リニューアル・オープンと小田原文化財団江之浦測候所の竣工を予定。2009年高松宮殿下記念世界文化賞、2010年紫綬褒章、2013年フランス芸術文化勲章オフィシエなど受賞(章)多数。

榊田倫之
建築家

1976年滋賀生まれ。2001年京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科博士前期課程修了後、株式会社日本設計入社。2003年榊田倫之建築設計事務所設立。2006年まで建築家岸和郎の東京オフィスを兼務、ライカ銀座店などを担当するなかで、現代美術作家の杉本博司と出会う。2008年建築設計事務所「新素材研究所」を杉本と設立。現在、榊田倫之建築設計事務所主宰、新素材研究所取締役所長、京都造形芸術大学非常勤講師。

© GINZA SIX Retail Management Co., Ltd.

杉本博司(写真左)
現代美術作家

1948年東京生まれ。1970年渡米、1974年よりニューヨーク在住。徹底的にコンセプトを練り上げ、8 x 10インチの大型カメラで撮影する手法を確立。精緻な技術で表現する作品は世界中の美術館に収蔵。2008年新素材研究所設立。2017年には改装を手がけたMOA美術館(熱海)リニューアル・オープンと小田原文化財団江之浦測候所の竣工を予定。2009年高松宮殿下記念世界文化賞、2010年紫綬褒章、2013年フランス芸術文化勲章オフィシエなど受賞(章)多数。

榊田倫之(写真右)
建築家

1976年滋賀生まれ。2001年京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科博士前期課程修了後、株式会社日本設計入社。2003年榊田倫之建築設計事務所設立。2006年まで建築家岸和郎の東京オフィスを兼務、ライカ銀座店などを担当するなかで、現代美術作家の杉本博司と出会う。2008年建築設計事務所「新素材研究所」を杉本と設立。現在、榊田倫之建築設計事務所主宰、新素材研究所取締役所長、京都造形芸術大学非常勤講師。