プレゼント選びはなかなかに難航した。
いずれも池端晋のチームで働いていた裕樹、莉子、そして史織の三人で、三人とも上司だった池端晋と個人的にしたしかったわけではなく、ただ飲料会社のマーケティング部のいちチームとしてのつきあいしかなく、ときどき話し合いを交えて昼食をみんなで食べたり、仕事がうまくいったときに打ち上げと称して飲みにいったりした程度だ。個人的な話はほとんどしたことがなく、だから、池端晋が年度末で退職し、その九か月後にバーを開店させるとはだれも予想しておらず、そのオープニングパーティに招かれたのも意外で、「何かお祝いを」と莉子が言い出した、という次第である。しかも、その退職とバー経営の話で揉めたらしく、退職後に晋は離婚したと社内の噂で聞いた。単純に祝っていいものなのか、どうなのか。転職も離婚も経験のない三人にはうまく判断がつかない。
「無難に花でいいんじゃないかな。しゃれた感じのアレンジにしてもらって」と史織が言うと、
「お花はたくさん贈られるかもしれないし、なんだか無難すぎて社交辞令っぽくないかな」と裕樹が言う。
「池端さんは無愛想だったけど、私が落ちこんでいるとき、さりげなくだじゃれを言ってくれた」「オヤジギャグな」「そうそう、あり得なさ過ぎてたとえが思い浮かばないような、どうしようもないオヤジギャグ」「そんなに年ってわけでもないのに」「でも気遣いは伝わったし、ありがたかったよ」と、話しているうち、史織も池端さんの無骨なやさしさや気遣いを思い出し、たしかに花じゃ社交辞令っぽい、もっととくべつなものがいいと思えてくる。
「エプロンは?」「そんなの、ロゴ入りでとうに作ってるんじゃない?」「デジタル写真立てとか」「店の感じがわからないと、合うかどうか……。七〇年代風の内装かもしれないし」みんな黙りこむ。
翌日、これはどうだろう、と莉子から同報メールが送られてきた。添付された写真を見ると、真鍮のつばめのウォールデコレーションである。「つばめは幸運を運んでくれるっていうし、これはサイズもちいさいから、どんな内装でも合う」と、昼休み、莉子は自信満々で言い、その自信に気圧されるように裕樹と史織も賛成した。
池端晋のバーは、銀座の裏通りのビル地下にある、一枚板のカウンターとテーブル席が二席のシックな店で、オープニングパーティは立食形式でおこなわれた。裕樹の言ったとおり、カウンターには贈られた花がずらりと並んでいる。クリスマス間近だからか、ポインセチアやツリーをアレンジしたものも多い。
接客に忙しい池端晋が手の空いた頃合いを見計らって、三人でプレゼントを渡す。
「えーありがとう、開けていい?」と言いながら池端晋はリボンを解いて箱を開け、「みんなで選んでくれたんだ、ありがとう」と笑みを見せる。上司だったときより笑顔も話しかたもやわらかいと史織は思う。
「シックなお店だから、もし合わないと思ったらおうちにでも飾ってください」と莉子が言うと、
「アクセントになっていいよ、つばめは幸運を運んでくれるしね。あとで場所決めて飾るよ。ほらみんな、座ろう」
「え?」
「あはは、スワロー、座ろう、なんちゃって」池端晋が笑い、まったくおもしろくないが、晋らしくて史織は噴き出し、莉子も裕樹も笑う。だれかに呼ばれ、池端晋がその場を離れる。
「今度、あらためて三人で飲みにこよう」裕樹が言い、
「そうだね、会社の愚痴がたまったら吐き出しにこよう」莉子がうなずき、
「つばめに幸運を祈りにこよう」史織は手にしたグラスを掲げ、三人でちいさく乾杯をする。
THE GIFT
CITIZEN
[ 1F ]RING JACKET
[ 5F ]DISCORD
YOHJI YAMAMOTO
DUNHILL
[ 2F ]HYDROGEN
[ 5F ]LANVIN COLLECTION
[ 5F ]G/FORE
[ 5F ]DENHAM
[ 5F ]THE GENERAL STORE
/HERGOPŌCH
MSPC PRODUCT
[ 5F ]KURO
[ 5F ]THE NORTH FACE
[ 5F ]JACOB COHËN
[ 5F ]