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Vol.1 飛翔する「書の花」プロジェクト
講師 紫舟 SISYU

CREATIVE SALONとは…

大人の遊びと学びの場、「LOUNGE SIX CREATIVE SALON」。 多様な分野から気鋭のアーティストをお招きし、クリエイティブな学びの場となるGINZA SIXのVIP会員様だけにお届けするプログラムです。

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2019 Vol.1 飛翔する「書の花」プロジェクト

2018年秋にスタートした「LOUNGE SIX CREATIVE SALON」は、多様な分野から気鋭のアーティストを招聘し、普段からLOUNGE SIXをご利用いただいているGINZA SIXのVIP会員にお届けする大人の遊びと学びの場です。

5月25日に開催された2019年度の初回となるVol.1は、書を平面から解放し、書の立体彫刻をはじめ、日本の伝統表現を新しい斬り口で再構築し絵と文字を融合させた書画、さらに浮世絵の輪郭線をやはり彫刻で立体化させるなどで書道をアートに昇華、1400年ともいわれる日本最古の文化を世界に伝え続ける紫舟さんが登壇となりました。

エントランスに額装された作品が展示されるなか、冒頭で紫舟さんが一人の参加者に渡したのは、普段から愛用する一本の筆。曰く、「非常に軽くて毛が柔らかい。だから高い集中力が必要で、私はプレイヤーにさらに努力をしいるものがよい道具だと思っています。ぜひ、みなさんにも回しますので触れてもらえたら」との投げかけから、プロの道具を実際に手に取る得難い体験に、早くも高揚感が充満します。

そこから前半はスクリーンに映し出される作品を見ながら、ご本人のレクチャーを通じて、その活動への理解を深める時間に。「情報量が多くテクノロジーも発達した今、なぜ私たちは弘法大師空海をはじめ昔の人が書いた書を超えられないのか。私が導き出した答えは、彼らの精神性が今より高かったから」「ですから、ここ数年は月に一度、東京から離れてもの非常に不便な場所へ行き、携帯をオフに、腕時計も外して、パソコンも見ず、お肉やお魚やお酒も抜いて、目の前の紙と筆先にだけ集中するスタイルの制作合宿を欠かさず実施しています。そのことで今まで感じることがなかった異次元の集中力に入ることができるようになりました。この手から生まれた作品にも言葉のもつ言霊、魂が宿るのではないか。例えば『この方の病が治りますように』と願って書いた文字から恩恵があふれて、その言葉に導かれ、実際に病が治るような書を書くことを目指しています」といった話からは、紫舟さんが放つクリエイティブな緊張感が場を包んでいきました。

そこから中盤は「左回りの文字をもつ西洋、右回りの日本」「相対象を好む西洋、非対称を美とする日本」「左から右へ文字を読む西洋、右から左の日本」といった違いを意識した経験と葛藤を通じて、そこから西洋人には見えないものをどう表現しようとしてきたか。あるときは影に、またあるときは3Dに、紫舟さんの多様な書の背景が紐解かれることに。

さらに後半には一人一人のテーブルに筆ペン・和紙・下敷きがセットされ、紫舟さん直々の指導による筆のレッスンへ。参加者それぞれがまず自分の名前を書き、そのうえで「これを声に出しながら20回書くのが、うまく書を書くコツです」と話した“トン(筆を置く)・スー(直線を書く)・トン(筆を止める)”を練習する参加者たちの席を巡りながら、愛用の筆を手に凛と指導する紫舟さん。

そして最終盤に行われた“トン・スー・トン”を活用した「はらい」の練習では、集中を維持すること5分。そのむずかしさを体感した後、改めて名前を書いてみると、ほとんどが当初より驚くほど上達! 最後は一人一人との記念撮影の場も設けられた後も、LOUNGE SIXにしばらく留まって書の練習に励む参加者の姿、その傍らを離れることなく見届ける紫舟さんが印象的でした。

Q&A インタビュー

  • Q

    作品の制作とは別に、書道を広めるという意味で今回のCREATIVE SALONで行っていただいた筆の練習のような機会は、日頃から積極的に?

    教授を務めている大阪芸術大学で学生に教える以外に、2006年から毎年秋の三連休には子供たちに大切な人へ想いを届け、大きな和紙に言葉を綴ることを伝える社会活動をやっています。基本的にはそれくらいで、今回のような大人の方々に向けてというのは珍しいですね。終わった後お腹がぺこぺこになるほど集中しました(笑)。

  • Q

    今日のレクチャーでは紫舟さんの作品にも活かされている西洋と日本の違いに関する分析もありましたが、書を世界に伝え続けるモチベーションの現在形とは?

    この5月はNYブロードウェイのステージでパフォーマンスを行いました( http://www.e-sisyu.com/exhibitions/japannight )、会場の観客は2000人。そこで改めて感じたのは、体格も発音も異なればリズム感も劣る日本人は、西洋で生まれたエンターテイメントで世界に立つのは難しい。しかし、書でも鼓でも、文楽の語りでも、西洋の真似ではない、日本で育まれた伝統文化は、異国の人々を引き付ける力がある。この国にいると文化だらけで気付きにくいかもしれませんが、もともと文化に乏しい国はもちろん、世界は総じて文化を欲しがっています。日本に来る外国人観光客も、多くは東京ではない場所を旅しその土地の文化をリスペクトし、それを感じたいがため地方各地を旅しますよね。日本がこの先また経済大国になることは難しいかもしれませんが、文化では世界一になることはできる。そういう意味で大げさに言えば書という文化を背負っている、もしくは日本という大きな文化の一員として、文化の力でこの国をもっと発信することがいま必要だと思っています。書道もそうですが、世界は私たちが思うほど日本の文化を知らないと感じることが多い、文化の力で、世界に尊敬される日本を作っていきたい。

  • Q

    伝統的な書道を継承するだけでなく、アートに落とし込んだ紫舟さんの多様な表現がここからどう変化し成熟していくのか、楽しみです。

    文化は多様性を欠くと成熟が難しく、衰退してしまいますよ。高校生たちの書道パフォーマンスのような伝統文化への新しい事例が、増えるといいなと思います。

  • Q

    今回のプログラムは「CREATIVE SALON」というタイトルになりますが、紫舟さんが「クリエイティブ」という言葉に対して思うことは?

    AIの時代にもっとも増える職業は、アーティストだと言われていますよね。まさに今日いらしてくださった皆さんのように、余暇で書を書くというクリエイティブな喜びだけは、私たち人間は手放したくない。たとえボールペンが誕生した今も、ふにゃふにゃした筆でわざわざ墨をすりおろし…、という行為を日本人が1400年も手放さなかった理由も、そこにあると思います。

PROFILE

紫舟 SISYU

書家。6歳で書道を始め、日本舞踊などの教養を身に付ける。国内では2010年NHK大河ドラマ『龍馬伝』の題字を手がけるなどで注目を集め、2017年には上皇上皇后両陛下が紫舟作品展を御覧。2014年パリ・ルーヴル美術館Carrousel Du Louvreで開催されたフランス国民美術協会展で金賞と審査員賞金賞をダブル受賞。2015年イタリア・ミラノ国際万博会の日本館での作品を担当(展示・デザイン部門金賞受賞)。ほかNHK BSプレミアム『美の壺』や、洋食器のノリタケへ書を提供、受賞歴も多数。2013年より大阪芸術大学教授も務める。

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※ 初の作品集「Creator: A Collection of Works by Sisyu」
蔦屋書店より刊行。一枚一枚ことなる原画が封入された限定100部を、これ以上ない豪華な装幀で仕上げました。10年間の創作活動の中から、約180点を厳選した、紫舟の世界を一望できるコレクションです。 <GINZA SIX 6F 銀座 蔦屋書店>でお取り扱いしております。

Text:Yuka Okada(edit81)
Movie & Photos:Kiichi Niiyama


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