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Vol.3 世界へと躍進する、唯一無二のスイーツ
講師 庄司夏子 Natsuko Shoji

CREATIVE SALONとは…

大人の遊びと学びの場、「LOUNGE SIX CREATIVE SALON」。 多様な分野から気鋭のアーティストをお招きし、クリエイティブな学びの場となるGINZA SIXのVIP会員様だけにお届けするプログラムです。

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2019 Vol.3 世界へと躍進する、唯一無二のスイーツ

GINZA SIXの5Fに位置するLOUNGE SIXを舞台に、VIP会員様限定の遊びと学びの場として注目を集める「GINZA SIX CREATIVE SALON」。2019年度、書家の紫舟さんと写真家のサトウヒトミさんに続きVol.3の講師として登場したのは、限定数のプレミアムケーキの購入者だけが予約可能な1日1組のレストラン「été(エテ)」を東京・代々木上原で主宰する話題の女性シェフ、庄司夏子さん。

当日、会場にご来場のお客様を初っ端から高揚させたのは、ウェルカムスイーツとして全員の席にセットされた彼女のシグネチャーでもあるバラの花びらをかたどったマンゴータルト、その名も「Fleur d’été(フルール・ド・エテ)」。早速、賞味を始めたお一人お一人の席を巡り、「今日はお越しいただいて、ありがとうございます」と伝えながら登場した庄司さんは、従来のシェフのイメージとは一線を画すすらりとした長身とファッショナブルな装いも印象的な女性。

さらに直前までバックヤードで仕上げられた作りたてのタルトは宮崎県産の完熟マンゴーとして知られる「太陽のたまご」を使用。ベース部分のカスタードとサブレと相まってジューシーなマンゴーが際立つ味わいに、あちこちの席から「美味しい〜」と感嘆の声が上がりました。

その後、まずは進行役も交えてのトークへ。小学校時代の授業でシュークリームが膨らむ様子にいたく感動したのをきっかけに、自家製のそれを友人に配りまくり、高校の段階で調理師免許が取得できる食物科へ進んだこと。在学中から高校の先輩でもある有名シェフの店で従事し、その恩義ゆえ他の店に移るくらいなら独立しようと決めたのは若干23歳だったこと。資金調達などの関係もあり一人でもできる規模のレストランを作ろうと定め、「名刺代わりのシグネチャーを」と生み出したのがマンゴータルトだったことなどがテンポよく語られていきます。

その一方で話題は傍らに置かれていた彼女の私物であるハイブランドのトートバッグから、ラグジュアリーブランドとのコラボレーションも多い庄司さん×ファッションの関係へ。「オンタイムで配信されるプレタポルテのランウェイを見たりするとインスピレーションが湧いて、ケーキのアイデアが思い浮かぶことがあります。新しい刺激を与えてくれるファッションは私にとって不可欠な存在で、今後、仕事をやってみたいブランドは「クリスチャン ルブタン」! この間、勝手にルブタン仕様のケーキを作って、先方にプレゼンにも行ってきました(笑)。あとアーティストでは村上隆さんともご一緒してみたいです。チャンスは待っていても巡ってこない。『夢』というものがどうもふんわりしていて好きじゃないので具体的な『目標』を言葉にしてそれを達成することで、いかに特別なお客様にサプライズを与えられるかを考えています」と、タフな一面も覗かせました。

さらに終盤は庄司さんがナイフを持って実際にマンゴーをカットしながら、ケーキ作りを実演する、ご本人曰く「全容全てをお見せするという、本当に珍しい機会をいただきまして(笑)」と語る一幕も! 「テイクアウトのものはお客様の手元に届いたときに水っぽくべちゃっとならないように、花びらのマンゴーは厚めにカットし、マンゴーそのものも果肉にしっかりした国産の味わいの深いものにしています」「一つ一つを本当のバラのように仕上げようという気持ちを持って仕上げるには集中力が必要なのと、仕込んでおけるものがなく全て手作業になるので、今は1日に10個前後までのオーダーに限定しています」「ケーキに置く複数のバラの大きさは満開だったり蕾だったり微妙に変えることで、本物のような艶かしさや儚さというリアリティを出しています」「フォルムをキープするために最後は上からゼリーを塗って、レストラン出身者でもあるので、なるべく予約の時間の直前に仕上げて、出来立てをお届けしたいと思っています」…と、手を動かす中で自然と口を衝いて出る庄司さんの言葉には、お客様に真摯に向き合うプロとしての強い姿勢が感じられました。

なお、最後の締めでは「まず応募してくださったお客様がいるということと、こうして来てくださるということだけでもうれしいのと、普段クリエーションに専念していると自分の店以外の場でリアルな人々に触れることが少なくなってしまうので、今日はGINZA SIXのお客様で美しくてかっこよくて品のある方々にお会いできて光栄でした。今後という点では、私は自分以外の女性シェフを国内ではあまり知らなくて、たぶん体への負担であったりそこには壁があるんだと思うんですが、今回のCREATIVE SALONのような場で私のようなビジネスモデルもあるということを知っていただいて、もっと同性のシェフが増えるといいなと思っています」と力強く語った庄司さん。食の未来だけでなく新しい女性シェフのあり方を自らの行き方を通じて切り拓こうとする30歳の覚悟に、余韻と期待を感じさせる時間となりました。

Q&A インタビュー

  • Q

    トークの中で、ブランドのランウェイからインスピレーションを得ているという話が印象的でしたが、今日のファッションは?

    トップスはイッセイミヤケで、エプロンはアツシ ナカシマというブランドです。シェフコートでかっこいいのがあまりなくて、アマゾンで見つけました(笑)。イヤリングは7年くらい前に買ったシャネルなんですが、酔っ払って一つ落としてしまったので、片耳だけ(再笑)。特別裕福な家でもないんですが、母がシャネルが好きで、小さい頃は日本のホテルとかで行われるショーに連れて行ってもらったりもしていました。そういう影響もあって、洋服はずっと好きなんです。

  • Q

    女性のシェフのビジネスモデルの一つになりたいというコメントにも、そこに至った庄司さんの強い原体験を感じました。

    今年1月に、2015年の「アジアのベストレストラン50」で最優秀女性シェフに輝いた香港のVicky Lauとコラボレーションディナーをしたんですけど、バックヤードのプライベートルームでは旦那さんが赤ちゃんをあやして、彼女をフルサポートしていたんです。他にも海外のシェフは育児をしている人も多いですけど、日本では未だに「家事は女性がやるもの」という文化が根強いじゃないですか。特にシェフの朝から晩まで仕事で育児なんて到底無理で、私自身は今の仕事に徹しているので結婚とかに興味がないんですが、例えば私のようなレストランは1日1組、ケーキは予約制というビジネスモデルであれば、プライベートの時間も充実できると思っています。

  • Q

    プレミアムな高級ケーキの販売と1日1組限定レストランの営業、庄司さんの中での住み分けとそれぞれの現在地を改めて聞かせてください。

    ケーキの販売に関しては、入手困難で1万円もするうちのケーキを買い続けてくれて、ときに「何十万円でもいいので特注のケーキを作ってください」とリクエストをくださるような感覚のお客様を探すためにやっているところもあります。そこで「作品を買うためにアートバーゼルに行ってきたわ」みたいな質のいいお客様がいたら、「レストランにいらっしゃいませんか」とその先に誘導するような住み分けですかね。よくある接待に使う店ではなく、1組4人の店だったら、心が寄り添える人と行きたい。料理が美味しいという本質は当然ですが、極上の体験は誰と食べるかに尽きると思います。

  • Q

    普段からラグジュアリーなお客様を相手にしている庄司さんがもっとも大事にされていることは?

    一流のお客様が求めるのは常にプライベートな対応なんです。それをやらなくなった瞬間にお客様は離れていくものではないでしょうか。私はお客様のためなら睡眠時間を削っても働きます。自分のケーキのために飛行機に乗って買いに来てくれるお客様を目の当たりにしたら、一生懸命やるしかない。「うちの規則が」と自分の都合を言い始めたところで、お客様にはそれぞれのストーリーがある訳で、それをいかに熟知して、相手の懐に入っていけるかが勝負だと思っています。

PROFILE

庄司夏子

1989年生まれ。2007年に代官山「Le jue de lassiette」(ミシュラン一つ星)、2009年に南青山「floriege」(ミシュラン一つ星、Asia’s best 50 restaurant 3位)のオープニングから携わり、後にスーシェフとなる。2014年、24歳のときに代々木上原に「été」をオープンすると、オリジナルスイーツの「Fleur d’été」が予約殺到で入手困難となり、カルティエでのコラボイベントなどでも即日完売に。一方で1日1組4席のプライベートレストランは食べログ全国100位以内、3年連続でSilver Awardを受賞し、世界のレストランランキングの一つOADにおいても日本人女性シェフとして初めてランクイン。David Beckham、Tony Leung、デンマークの世界的レストラン「Noma」のシェフRene Redzepi、メジャーリーガーの大谷翔平なども来店する。

Text:Yuka Okada(edit81)
Movie & Photos:Kiichi Niiyama


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