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Vol.4 【Yamanashi Uncork】〜山梨ワインを紐解く〜
講師 Robert Smith MS(ロバート・スミス)

CREATIVE SALONとは…

大人の遊びと学びの場、「LOUNGE SIX CREATIVE SALON」。 多様な分野から気鋭のアーティストをお招きし、クリエイティブな学びの場となるGINZA SIXのVIP会員様だけにお届けするプログラムです。

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2019 Vol.4 【Yamanashi Uncork】〜山梨ワインを紐解く〜

LOUNGE SIXを舞台に順調に回を重ねている「GINZA SIX CREATIVE SALON」。2019年のVol.4は、日本人以外では初の講師で、世界でも249人しか有していない最難関資格とされる“マスター・ソムリエ”の称号を2004年当時最年少で受賞したロバート・スミス氏が登場。アメリカで生まれ、ラスベガスを代表するカジノホテル「ベラージオ」のメインダイニング「ピカソ」で18年間、ワインのみならずあらゆる飲料のバイヤーとして活躍。その後、北カリフォルニアのワインカウンティの一つであるソノマのヒールズバーグで多くのワイナリーを抱えているワインカンパニーに勤務。ニュージーランドやオーストラリア、イタリアやアルゼンチン、フランスといった世界中のワインのクオリティをさまざまなかたちで教育し、2019年4月からは拠点を日本に。現在はナパバレーの天才的ワインメーカーで知られるジュリアン・フェイワードが2012年にスタートした「AZUR WINES」初のワイナリーレストラン「AZUR et Masa Ueki」(東京・西麻布)に参画するなど、これまでの経験を活かしワインに関する業務に携わっている。

なお、この日はアメリカのワインではなく、日本を代表するぶどう品種「甲州」をテーマに、GINZA SIXのB2Fでこちらもありとあらゆるお酒を約600種取り揃える「いまでや銀座」から、ロバート氏がKisvin Winery(キスヴィン ワイナリー)のスパークリングワイン「Kisvin Koshu Sparkling 2018」と白ワインの「Kisvin Koshu 2018」、さらにChateau Jun(シャトー ジュン)の白ワイン「Sémillon 2017」を選びフォーカス。会場にやってきた参加者一人一人にはロバート氏本人からスパークリングワインがエレガントにサーブされ、本場のホスピタリティに会場の期待が高まる。

その後、スパークリングワインの他に2種の白ワインがテーブルに運ばれ、さらにこの日のために「AZUR et Masa Ueki」の植木将仁氏が用意した3種のピンチョス(XO醬のソースの夜アスパラガスのババロア、柚子胡椒をきかせた時鮭のピシュレ、鴨と素揚げのズッキーニ)がもてなされると、いよいよ通訳を介しながらトークタイムがスタート。まず手始めにと言わんばかりに「日本ワインを今日初めて飲んだという人は?」「普段から海外より日本ワインをよく選ぶ人は挙手を!」と歩きながら参加者に投げかける、流石のコミュニケーション力に早くも会場が一体となり和んでいく。

続いて今回のワインに選んだキスヴィン ワイナリーとシャトー ジュンの造り手について、実際に甲州にあるワイナリーを訪問した際のエピソードを披露。前者は食用ぶどうの生産農家3代目の荻原康弘氏がワイン用ぶどうの栽培に着手し、点在する複数区画を合わせてもわずか5ヘクタールながらすべて手仕事にこだわり、エネルギッシュで凝縮され爽やかな白ワインを生み出していること。後者は2年目のアメリカのオーク樽を使って熟成し、ほかにもアカシア樽やフランス産の樽を使うなど様々なスタイルを取り入れ、同じ甲州の白とはいえ全く違った味わいを実現していることが語られていった。

実際にテイスティングをしてみても、時間が経っても決して酸味に傾かず、むしろぶどうの果実味が続く、甲州ワインのイメージとクオリティを覆す味わい!

一方で世界中のワインを知り尽くしたロバート氏が甲州に改めて注目する理由については「日本には310のワイナリーがありますが、その90%が山梨にあります。そしてその技術と品質がここ10年前後で進歩している。背景には経済的な安定から、高額な醸造施設の設備とぶどうの研究へ投資できる環境が整ったことが大きいのです」「これまで多くの甲州ワインの糖度の平均は9.5〜10%で、通常12〜13%ないと芳醇な糖分が感じられないとされるワイン業界の最前線では、なかなか試される機会がありませんでした。でも、温暖化で糖分を蓄えることができるようになったことも手伝って、甲州が世界で評価される品質を手に入れています」と解説。これからの甲州ワインへの期待が一気に膨らむ結果となった。

また、リラックスをもたらしてくれるワインの会らしく、参加者からもロバート氏に対してカジュアルな質問が投げかけられる一幕も。そんな展開にも嬉々と対応したロバート氏、最後は「かつてアメリカワインの父である生産者のロバート・モンダヴィは、カリフォルニアのワインを世界のワインと肩を並べるという強いビジョンをもって、それを実現させました。甲州そして日本ワインは必ず近年のうちに、フランスやニュージランドのような一つのワインユニバースとして世界に認められ、ロンドンやアメリカのレストランでも飲まれるブランドになる。ワイン業界では投資の幅がぶどうの品質を左右するので、皆さんも甲州の作り手に足を運んでもらって、自分の国やその地域に誇りを持ってもらって、何より甲州ワインを買って飲んでもらって、共に盛り上げて欲しい」という力強いメッセージとともに、幕を閉じた。

Q&A インタビュー

  • Q

    一言でいうと「ついに甲州ワインの救世主(ロバート氏)が日本にやって来た」と強く感じた、とても情熱的な講義でした。

    ありがとうございます。第一に“KOSHU”で世界に出て、その後で“NIHON”というワインのカテゴリーが追従していく。私はそういうステップをイメージしています。例えばニューヨークには何百もの日本食レストランがありますが、日本ワインを仕入れているところは果たしてどれだけあるでしょう。今後はそうした海外の知り合いの店にも甲州ワインを紹介してみたいと思っています。

  • Q

    ラスベガスを経て、北カリフォルニアというワイン・カウンティでのキャリアを離れて、なぜ東京を拠点にしてみようと思ったんでしょうか?

    「AZUR et MASA UEKI」を日本にオープンさせたマッシュホールディングス( https://www.mash-holdings.com )およびマッシュフーズ( http://www.mash-foods.com )のために、ワイン設備の供給などをアメリカで手伝わせていただいたご縁からです。彼らの会社のためだけではなく、ワインの変革や教育のために来て欲しいと言われたことも大きかったですね。それと少し休息できる時間を増やしたいと思っていたときでもあったので(笑)、タイミングです。今はここから日本のワインの文化を新たに創るぞ、という想いでいます。

  • Q

    そうなると、今後は甲州にも、国内外のワイン好きのツーリストが泊まりがけでゆっくりワインと食事を楽しめるナパバレーにあるような、素敵なB&Bやワインリゾートが必要じゃないでしょうか。

    まさにそれが私の夢ですし、ネクストステップですね。get away(旅行)や romance(恋)のためにも!

  • Q

    お話を聞きながら、ロバート氏はマスター・ソムリエでありながら、ワインの総合プロデューサーのような印象も受けました。

    確かにそれぞれのワインのクオリティを判断して良心的なプライスをつけることから、ペアリングの提案や、できる限りを手助けすることが私の仕事です。ソノマでも多くのワインの作り手や会社と働いて来ましたし、ベラージオに勤務していたときはバイヤーでもありビジネスの資料もまとめていましたしね。

  • Q

    ロバート氏の考えるラグジュアリーなワイン体験とは、どんなものだと思いますか?

    今の時代のワインというものはラグジュアリーというより、ライフスタイルの中にあって、日常の中で楽しむものだと思います。値段だけでなく、品質のラグジュアリーを見極めて楽しんで欲しい。ある環境の中でゆっくり時間を過ごし、そこの土地からこみ上げる何かを感じる心の豊かさがあれば、どんな体験もラグジュアリーになると思いますね。

PROFILE

Robert Smith

アメリカ合衆国テキサス州ダラス育ち。1998年ラスベガスのカジノホテル「Bellagio」に入社。料理界のアカデミー賞と称されるジェームズ・ビアード賞を受賞したジュリアン・セラーノがシェフを務める「Picasso Restaurant」に約18年従事。2004年に当時最年少で世界でも超難関資格とされるマスター・ソムリエ(MS)の称号を得て、史上149人目の資格保持者となる(現在は日本で唯一のMS資格者でもある)。現在は日本に拠点を移し、2019年4月からは東京・西麻布の「AZUR et MASA UEKI」をはじめさまざまなプロジェクトで、日本におけるあらゆるワインの啓蒙を促している。日本で唯一のMS資格者でもある。

Text:Yuka Okada(edit81)
Movie & Photos:Kiichi Niiyama


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