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Vol.6 〜知られざる、和栗とモンブランの世界〜
講師 竿代信也 Shinya Saoshiro

CREATIVE SALONとは…

大人の遊びと学びの場、「LOUNGE SIX CREATIVE SALON」。 多様な分野から気鋭のアーティストをお招きし、クリエイティブな学びの場となるGINZA SIXのVIP会員様だけにお届けするプログラムです。

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2019 Vol.6 〜知られざる、和栗とモンブランの世界〜

6回目となる秋のCREATIVE SALON。今回の講師は東京・谷中で日本で唯一の和栗専門店、さらに東京・富ヶ谷でカウンタースタイルのモンブラン専門店を営む、栗農家兼モンブラン職人として注目を浴びる竿代信也さんだ。

「顔が黒いのは、海に遊びに行ったわけでなく、畑焼けです(笑)」というご本人の前置きの通り、その第一印象は日焼けした姿がとにかく印象的。続けて「なかなか栗に詳しい方が少ないので、今日はまず栗の知識を得て帰っていただけたら」と話し始めたのは、第一に、日本で一番の栗の産地は小布施(長野)や丹波(兵庫)や中津川(岐阜)でなく、実は竿代さんの畑がある茨城県笠間市であることが、ほとんど知られていないこと。第二に、栗には200以上の種類があり、日本産の和栗の他に、大きく中国産・ヨーロッパ産・アメリカ産の栗が存在し、なかでも日本人は稲作が始まる以前の縄文時代から栗を食べていた歴史があること。そして、和栗の魅力は口に入れたときの“香り”なのだが、空気に触れるとすぐに損なわれてしまい、それなりのスーパーや百貨店で売っているものでも本来の香りを味わうのは本当に難しいこと…。

「そういうわけで、一大産地にもかかわらず笠間の栗があまりに無名だったことから『和栗や』を立ち上げ、何をフックにしたら栗本来の魅力を伝えやすいかを考えたときにモンブランがいいと思い、今はその専門店も経営しています。作りたての栗の味を味わって欲しいので、持ち帰りはやめて、カウンターの中でお寿司屋さんのようにその場でモンブランを作ってお出しすることで、“とれたての栗に近い状態で本当の香りを味わって欲しい”という、栗専門店としての想いだけでやっています」とは竿代さん。

ちなみに、栗は見た目の頑丈さとは逆に、とても繊細で、竿代さん曰く「鮮魚と同じように扱っている」とのこと。木から落ちたらその日に拾うのが基本で、すぐに加工所に持っていき、洗うなり、冷蔵ないし冷凍するなり、用途によって工程が分かれる。いずれにしても、鮮度を保つためにいかに迅速に行うかが全てで、栗の選び方に関しては「スーパーなどで売られている栗は、いつ収穫されたのかも不明ですし、正直、あまりお勧めしません。栗の保存には常温すら敵で、氷温に近い状態で管理し、輸送のときもクール便が大前提。そういう意味では、産地から取り寄せて、クール便で送っているところなら、おそらく間違いないでしょう。いい栗は艶に現れますし、小さい栗の方が大味にならず美味しいです」と伝授してくれた。

その後はお待ちかね、コックコートに着替えた竿代さんが実演も兼ねて、この日の参加者分のモンブラン作りがスタート! 店舗で出しているモンブランではかなりのボリュームになるとのことで今回はミニサイズ。とはいえ、一番下に渋皮を使ったふわふわのクリーム、真ん中に無糖の生クリームを置いた上に、剥栗のクリームをぐるぐるとのせていく竿代さんの真剣な眼差しは、「毎日ひたすらモンブランを作っている」というだけあって、職人そのものだ。

なお、モンブラン以外にも、谷中にある和栗やの人気商品から、8割が栗だという濃厚な香りと味わいが圧倒的だった「栗薫(くりかおる)」と、前日に畑で収穫した栗を当日の朝に炊いてきたと話してくれた、溶けるような食感とやわら甘さが新食感だった秋限定「新栗甘露(しんぐりかんろ)」がもてなされ、さらに「コーヒーは栗の風味を消してしまう」との理由から、茶名人“小室栄寿”氏に一番茶の厳選した茎の部分だけを特別に焙じてもらっているオリジナルの茎ほうじ茶が、栗の余韻を際立たせるよう。畑がある茨城県の笠間は陶芸の里でもあることから、お皿と湯呑みは笠間焼き。店舗でもこの日とは違った笠間の器を愛用しているという。

「多くのメディアや今日のような機会で取り上げていただいても、似たようなお店が出てこないのは、大変だし、儲からないから(苦笑)。でも、頑張って続けられるうちは、栗とモンブランの美味しさを伝えていきたい。今はまだ畑も造成中ですが、収穫時期には人手が必要になるので、2〜3年以内には笠間の畑でツアーを行うなどして、皆さんがご自身で拾った栗をいつかモンブランとして提供できるようにしたいと思っています」

締めにはそう夢を語った竿代さんから、栗の知識とその本来の味を宿したモンブラン体験以上の何かを参加者それぞれが持ち帰ることができた、実に学びがあるCREATIVE SALONだった。

Q&A インタビュー

  • Q

    和栗の伝道師としてその普及に身を投じよう、と決心した一番大きな出来事は?

    前職(※大手航空会社系のカタログのプロデューサー兼クリエイティブディレクター)で出合った商品や食材はいっぱいあって、お手伝いしたいと思える地域や生産者の方々ともたくさん出会ったんですが、栗もその一つで、あくまでご縁だと思っています。一方で、先々に企画を持って行ったりするうちに、「そうはいっても自分は一時的にお手伝いするだけで、何かひとつに絞って本気でお手伝いしないと、相手と対等になれないし、失礼にあたるんじゃないだろうか」という気持ちが大きくなっていました。笠間の栗も最初はプロデュースから入ったんですが、ちょうど東日本大震災もあって、地域や農家の方々が「笠間の栗はもうダメだ」と意気消沈してしまって…。そこで「いや、そんなことはない、これからです!」と言って、彼らと一緒に立ち上げた会社が「和栗や」です。

  • Q

    和栗の本来の味を知ってもらうと同時に、竿代さんの意欲的な活動をどう受け止めて欲しいと思われていますか?

    和栗をはじめ日本の食文化は、子供たちに残すべきものだと思っています。ただ、食で成功できるのは、商売っ気があったり、ブランディングが巧みだったり、量産ができたり、ある程度フレキシブルに動ける人で、地道に本当にいいものを作っている食文化がどんどんなくなってきているのを目の当たりにしてきました。だから、僕以外にも「かぼちゃの伝道師になろう」「黒豆の伝道師になろう」というような本気である食文化に身を投じる方が、一人でも増えて、本当の食文化を未来に残していけたらという思いでいます。消費者が変わらなければ生産者も販売者も変わらないので、本質的な食材を扱っているところに目を向けて欲しいですね。例えば八百屋で栗が売っていたら「これはいつ収穫したものですか?」と聞いてみてください。ほとんどの店員さんは答えられないと思います。真面目に作っている生産者が浮かばれるかどうかは、私たち次第ということですね。

  • Q

    モンブランやそのほかのお菓子のレシピはどのように考案されているんでしょうか?

    レシピに関してはまだまだ足りないところでもあって、製菓学校や料理学校の出身でもないので、基本的には素人の強みなんです。たまにご家庭の主婦でものすごく美味しいお菓子を作る方がいますけど、それは親しい間柄の人に喜んで安心して食べてもらうために、量産とか原価とか商売っ気とかを気にしないで作っているから、純粋に美味しいんだと思うんです。いずれにしても決まりごとがない状態で、追求していきたい。もともとクリエイティブ出身なので、思い付きも多いです。

  • Q

    今後のビジョンを教えてください。

    栗を品種別で選んでもらえるようになったら、楽しいだろうなと思います。うちの畑では、モンブランに最適な「丹沢」と「人丸」の2種を作っているんですが、「人丸」はキラキラしていて本当にきれいで、香りも良くて、茹でると黄色が鮮やかで味もいいので、谷中の和栗やで数量限定で販売しているプレミアムモンブランだけに使っています。栗は繊細なので同一種でも混ぜ方や環境でモンブランの味が変わってしまうので、我々も、それぞれの栗に合わせた作り方をもっと研究していく必要がある。そういう意味では僕はまだまだ職人じゃなくて、職人になるのが目標です。

PROFILE

竿代 信也 Shinya Saoshiro

1970年生まれ。約20年間、大手企業の広告、デザインに携わる。1997年から大手航空会社系カタログのプロデューサーとして、多くの媒体のディレクターに。国内外を飛び回り、中でも食カタログでの食材や生産者との出会いが、現在につながっている。2010年、株式会社「和栗や」を創業。2011年日本で唯一の和栗専門店「和栗や 谷中店」をオープン。2016年、茨城県笠間で自社農園をスタート。2018年、8席のみのカウンタースタイルのモンブラン専門店「Mont Blanc STYLE」を開店。連日、整理券を求める長蛇の列ができる人気店となり、注目を集めている。

和栗や https://www.waguriya.com
Mont Blan STYLE https://www.montblancstyle.com

Text:Yuka Okada(edit81)
Movie&Photos:Kiichi Niiyama


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