report

Vol.8 京源サロン
「CRYSTAL紋が煌めく袱紗作り」
講師 波戸場承龍・耀次 Hatoba Shoryu・Yohji

CREATIVE SALONとは…

大人の遊びと学びの場、「LOUNGE SIX CREATIVE SALON」。 多様な分野から気鋭のアーティストをお招きし、クリエイティブな学びの場となるGINZA SIXのVIP会員様だけにお届けするプログラムです。

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2019年度 Vol.8
京源サロン「CRYSTAL紋が煌めく袱紗作り」

2019年の8回目となるCREATIVE SALONのテーマは、全国でもはや数十人しかいないとされる紋章上繪師で東京・上野に工房を構える「京源」3代目の波戸場承龍さんと息子の耀次さんを講師に迎えた、クリスタルの紋が煌めく袱紗(ふくさ)作り。

もともと初代は1910年に京橋で創業し、紋糊屋(もんのりや)という着物の紋の形に糊を付ける仕事をしていたが、手先が器用だった承龍さんの父である2代目が周囲の勧めもあり、着物に手書きで紋を描き入れる上繪師に。そして幼い頃からその英才教育を受けたという承龍さんは2010年以降、紋章上繪師としての活動以外に家紋の継承と魅力を伝えるべく“デザインとしての家紋”をテーマに、さまざまなクリエイティブを発信している。

この日はLOUNGE SIXの個室に小さなテーブルが用意され、5人の参加者はカッティングシート上の「光琳梅」「牡丹」「下り藤」「桜」「蔦」「宝結び」「結び蝶」「朝の葉」「光琳松」「丸に五三桐」、さらにGINZA SIXのために承龍さんが特別にデザインした「六つ繋ぎG」の全11種類の紋章からまずは1種を選択。

次にシールを剥がした紋章の上に、2種のSWAROVSKIクリスタルを一粒ずつ置いていく。

できあがった各々の紋章は、承龍さんが自らアイロンを持ち、丁寧に袱紗に転写。ちなみに袱紗の生地は金糸で“桐竹鳳凰”(※聖者が出現するときに桐の木に住むとされる鳳凰を、竹とともに配した吉祥文様。吉祥や慶寿を意味し、江戸時代以降、婚礼衣装の打掛などに使われた高貴な文様)の地模様が入った特別な絹織物で、今回のために染めた灰桜色・白茶色・石竹色の3色から選べるとあって、耀次さんをして「どなたも器用で素晴らしいですね」と称した参加者の表情にも充実感が滲み出る。

続いて京源オリジナルの桐箱に収められた袱紗を愛でながら、ソファエリアに移動してのティータイムへ。

ここでは、
1)家紋は全て正円と直線の二つだけの要素で成り立っていて、伝統的に分廻しという竹製のコンパスで円を描きながら形作っていくこと。
2)耀次さんが父の承龍さんを手伝うことになった経緯は、クライアントからオリジナルの紋をIllustrator形式で納品するよう依頼された承龍さんからの要請で、Abodeの無料期間である1カ月を利用して独学で会得したのがきっかけだったこと。
3)そこから分廻しでなくIllustratorの円ツールを活用して描き始めたところ、紋の伏線が曼荼羅に似ていることから、それをアートとして魅せる「紋曼荼羅」という発想と作品群が生まれ、徐々にコラボレーションの話が持ち込まれるようになったこと
などが語られていく。

「例えば、日本橋の商業施設である『COREDO』の暖簾のデザインを担当させてもらったり、 Eテレの『デザインあ』で円と線を巧みに組み合わせて描く「紋」をアニメーションで表現してもらったり、小さな円の中に収まっていた家紋の魅せ方が変わっていきました。さらに、世界的なデザイナーのパリコレに関わらせていただいたり、イタリアのブランドからバッグやお財布のデザインを頼まれたり、ブティックホテルの空間デザインに関わったりと、最初は僕らだけで完結していた活動が、ここ数年はいろいろな方々を通じて、少しずつ多様なフィールドからデザインの依頼をいただくようになってきました。そのうえで近年は原点でもある『手描きで家紋を描いてもらいたい』というお客様も増えて、本当にありがたいと思っています」(耀次さん)。

ちなみにその後も承龍さんと耀次さんの多彩な活動にまつわる話は尽きることなく、各回最大5人のみというアットホームさも手伝ってか、参加者からは「家紋がクリスタルのスタッズとこんなに相性がいいと思わなかったです」「アメリカのAppleのロゴも確か円ツールで描かれているんですよね」というラフな会話も飛び出すなど、そこには回数を重ねてきたCREATIVE SALONの成熟とここからの期待を感じさせるものがあった。

Q&A インタビュー

  • Q

    2010年以降、紋章上繪師としてだけでなく“デザインとしての家紋”を掲げて、アーティストとしてもデザイン活動をしていこうと思い立った理由とは?

    僕は昭和50年に紋章上繪師の修行を始めて、昭和55年に独立した後、昭和60年からは白生地を預かって仕立てまでを行う着物の総合加工の会社を起こしました。着物業界全体がだんだんと縮小されていく中で2010年、デザインとしての家紋を軸にしながら新しいビジネスに挑戦しようと思ったんです。(承龍さん)

  • Q

    家紋の素晴らしさはどんなところにあると思いますか?

    植物を描いたものが多いので、一番は「美しさ」ですね。あとはそこに想いが込められているということ。例えば房がいっぱい描かれた「下り藤」は子孫繁栄という願いを表しています(承龍さん)。

  • Q

    今の時代において家紋を継承する意味の一つに、ロボティクスやAIが台頭し、自然災害やウィルスの脅威が半ば日常的となり、結果的にその昔の日本人が素朴な花鳥風月に見た穏やかさや豊かさは、より大切にすべき感性として受け入れられる土壌があるようにも思います。

    それはすごく感じますね。僕らのやっていることは、2010年から基本的には変わっていないのに、関わってくださる方々の家紋を見る目がかわってきたのは確かです。きっとどんな伝統もそのままでは後世に伝えていくことは難しくて、時代に合わせて進化させていくことで、それがまた伝統となっていくんじゃないでしょうか。そういう意味で、僕らがやっていることも家紋を古臭いものとしてでなく、現代のライフスタイルの中にどうスタイリッシュに落とし込めるかという永遠の挑戦でもあります(耀次さん)。

PROFILE

波戸場承龍 Shoryu Hatoba
紋章上繪師。「京源」三代目。1980年より家紋を着物に手描きで描き入れる職人「紋章上繪師」として活動。2010年より正円と直線のみで家紋を描く江戸の技と、デジタルワークの両方の技術を融合し、独自の作風「MON-MANDALA」を生み出しアート作品を制作。職人兼デザイナーとして活動は多岐に渡る。

波戸場耀次 Yohji Hatoba
紋章上繪師。2004年より職人として修行を積みながら、2010年よりillustratorを使用し家紋をデザインする事業を開始。父とともに現代のライフスタイルに昇華させた家紋デザインを国内外に発信している。

Text:Yuka Okada(edit81)
Movie&Photos:Keiichi Niiyama


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