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Vol.9「投資としての現代アートセミナー」
講師 三井一弘 Kazuhiro Mitsui

CREATIVE SALONとは…

大人の遊びと学びの場、「LOUNGE SIX CREATIVE SALON」。 多様な分野から気鋭のアーティストをお招きし、クリエイティブな学びの場となるGINZA SIXのVIP会員様だけにお届けするプログラムです。

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2019年度 Vol.9
「投資としての現代アートセミナー」

本を結節点としてアートと日本文化と暮らしをつなぎ、「アートのある暮らし」を提案するGINZA SIX 6Fの銀座 蔦屋書店が、9回目を数えるCREATIVE SALONを初プロデュース。舞台もLOUNGE SIXから蔦屋書店に移し、講師として登場したのはミツイ・ファイン・アーツ代表の三井一弘さん。

美術界で世界的権威を持つ画廊で知られるニューヨークのウイルデンスタイン・ギャラリーの日本法人で約20年にわたり、イタリアのルネサンス絵画や印象派、現代美術、版画、写真、プリミティブ・アート(原始美術)など多岐にわたるアート作品を取り扱い、2016年に独立。現在は長年培った審美眼のもと唯一無二の独立系アートディーラーとして、世界中のトップギャラリーが扱う世界的に価値がある作品のみをコレクターに紹介。その一方でアートに興味を持つ初心者に向けて、現代アートとアート市場についての講演も積極的に行っている。

まずはGINZA SIX 地下2階の「カフェ・ユーロップ」のバームクーヘンとともに、ゲストにお土産としても配られた自身の著書『アート観賞 BOOK この一冊で《見る、知る、深まる》』を手に、「なんとなくでも僕のことを信用していただけましたか(笑)?」と謙虚な自己紹介からスタート。

そのうえでアメリカのビジネスマンの間では近年、仕事の前に美術館に寄ってモーニングセミナーを受講し、アートを学ぶことで改めて発想の変換や想像力を養い、AIが苦手な分野とされるクリエイティブな能力を身に付けようとする動きがあること。そして何事も経験の蓄積によって感受性や理解力が深まるように、アートもまた美術館で観賞し本で読むだけでなく、実際に所有することではじめて身になることが前置きとして語られていく。

「アートの目利きになるにはポイントがあります。第一に勉強するより、まずはアートを買ってみること。次にそのアートから何かを感じて、自分がシンクロしてきたら、アートをもっと学んでみること。その際に印象派でも何でも各ジャンルの傑作だけを見ること。そして目が肥えた状況で次のアートを買い、ステップアップしていくことです。というのも、2017年の世界の美術館で行われたエキシビションの動員数でも、1位は東京国立博物館の『運慶』、3位は国立新美術館の『ミュシャ』、5位にやはり国立新美術館の『草間彌生』など、世界のトップ20の中の5つは日本の展覧会がランキングされている。でもアートマーケットの売り上げとなると、日本は世界の中でたった0.7%でしかない。そこにはバブル崩壊後の失われた30年の影響がまだまだ根強く存在しています」(三井さん)

ならば、どのような作品が傑作なのか。三井さん曰く、それは「流動性と換金性があり、交換価値の高いアート」。具体的には西洋美術の流れを汲んでいること。その時代の異端児による現代美術であること。一目見て誰の作品かわかること。軸になるコンセプトがあること。そして一番大切なのは、人の心に染み入る作品であることだという。

たとえば東京都現代美術館が所有する傑作、ポップアートの異端児であるロイ・リキテンスタイン作《ヘア・リボンの少女》は、1995年の開館当時の購入価格は6億円。「都民の血税から6億円も使うのか」と物議を醸したが、現在の市場価値はなんと100億円を超えるとも。それこそが交換価値の高いアートであり、「東京に住んでいる人が世界に自慢できる作品のひとつ。いいアートというのは価格が上がっていくものなんです」とは三井さん。

最後は「実際にはどのアーティストの作品を買えばいいの?」というVIPのために、エジプト美術のコントラポスト(体重の大部分を片脚にかけて立っている人を描いた視覚芸術)に影響を受けているという人気のジュリアン・オピー、世界中から引っ張りだこである日本人作家で銀座 蔦屋書店でも彫刻作品《Throne》が販売中の名和晃平(※下写真)、92歳のいまなお作品を発表しアメリカ最後のビッグネームとも言われるアレックス・カッツ、3名のアーティストを紹介。

カッツに関してはその場にエントリー作品も展示され、「カッツの作品は『プラダを着た悪魔』という映画でメリル・ストリープが演じた編集長の家にさりげなく飾られていて、かっこいいなぁ、センスがいいなぁって(笑)」とコメントを添えるなど、投資としての現代アートをあくまで親近感を持たせながら伝えるあり方も印象的だった。

Q&A インタビュー

  • Q

    今日のセミナーを通じて、三井さんがおしなべて伝えたかったこととは?

    僕のようにアートディーラーが投資の話をするとあまりいい顔をされないこともありますけど(苦笑)、ウイルデンスタインにいた頃、昭和を作ってきた財界人がお亡くなりになって資産を整理するご家族のお手伝いをすることがあって、故人が好きで買ったアートでも世界でマーケットが確立されていない作家だと何十分の一の値段になってしまう。それが残念でならなくて。それと老舗画廊であるウイルデンスタインは一時期、ニューヨークの現代美術の有名画廊であるペース・ギャラリーを買収したりで、僕はペースの所属作家の作品も同時に扱うことができたんですね。そういう意味でも古典から現代美術まで、さらに世界でトップクラスの作品を見てきた経験を持つアートディーラーは日本ではほかにいないですし、外資だけでなく、国内の現代美術の画廊からそれこそ銀座の老舗画廊とも繋がりを持てる。契約作家も持たないのでバイアスがなく公平に作品を見ることができることも希少な立ち位置にあると思っています。

  • Q

    「アートのある暮らし」を提案する銀座 蔦屋書店の取り組みについてはどう見ていますか?

    僕はアートディーラーになる前に現代アーティストとして活動していたので、作家にとって作品を売ってくれる場所の必要性を痛いほど理解しています。一方で日本もコレクターが少しずつ増えてきていて、若手の作家が育ちやすい環境にある。そんな中で初めてのアートに触れる場所として、人によってはギャラリーだと少し敷居が高いかもしれなくて、銀座 蔦屋書店はその点でハードルを下げてくれているんじゃないかと思います。しかもしっかりした審美眼で作品を選定していて、作家とコレクター、2つのマーケットを育ててくださっている貢献度は大きいと思いますね。

  • Q

    最終的に日本のアートマーケットをどのレベルまで引き上げたいと思われますか?

    実はアートの世界でも日本人特有のガラパゴス化が起こっています。例えば日本で流行っているストリート・アートは、海外では「ジェンダー」にカテゴライズされる。そういう相違をなくすために世界のアートマーケットとの架け橋になれたらと思いますし、現代美術の傑作を日本に引っ張ってこられたらいい。企業でも個人でも美術館でも、アートを公に観賞できる機会が増えたら、作家もコレクターも付随して増えていくんじゃないでしょうか。

PROFILE

三井一弘 Kazuhiro Mitsui
株式会社ミツイファインアーツ 代表取締役。1970年横浜生まれ。米国NBS Chapman University校卒業。日本で現代アーティストとして活躍した後、アートディーラーに転身。ニューヨークのウィルデンスタインの日本法人で、多岐にわたる作品を取り扱う。2016年に独立。著書に『アート観賞 BOOK この一冊で《見る、知る、深まる》』(三笠書房)など。

Text:Yuka Okada(81)
Movie & Photos:Keiichi Niiyama
Photo:Yuichi Sugita(work of Kohei Nawa)


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