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A Tree|エイ・ツリー|吉野杉の無垢材の魅力が、GINZA SIXを彩る。|GINZA SIX

A Tree(エイ・ツリー)

吉野杉の無垢材の魅力が、
GINZA SIXを彩る。

建材や木工製品に使われる木材は長い年月をかけて森に育まれた樹木から生み出される。山に入る前には自然への畏敬の念を込めて神々に祈りを捧げ、その恩恵を無駄にすることなく緻密に製材されていく。4月17日から展開される〈A Tree(エイ・ツリー)〉は、設計事務所〈DAIKEI MILLS〉の代表・中村圭佑さんが指揮をとり、吉野杉がGINZA SIX館内を演出する。これまでの展示という枠を超え、素材自体が主役となり、家具や小さな建築として進化していくような壮大なプロジェクトだ。そして国内外のアーティストと協業しながら、アートやカルチャーの要素を取り入れたコミュニケーションツールとして機能を拡張していく。これから3年間に及ぶ展示の全貌を、中村圭佑さんのインタビューと共にご紹介する。

〈A Tree|エイ・ツリー〉[第一フェーズ]

制作者
DAIKEI MILLS / 豊永林業 / 大谷木材
展示場所
3F~5F 中央吹き抜け周りレストスペース
展示期間
2025年4月17日(木)~

〈A Tree〉第一フェーズの完成イメージ図

ものづくりの根源に立ち返る。

GINZA SIX館内の中央吹き抜け空間では、これまでに草間彌生、名和晃平、ジャン・ジュリアン、ヤノベケンジら世界で活躍する現代アーティストが巨大インスタレーションを手がけ、アートやカルチャーとの親和性の高い商業施設というポジションを築いてきた。今年の4月17日からは、吹き抜け空間に隣接するレストスペースで新たな試み〈A Tree〉がスタートする。吉野の山から届く吉野杉が主役のプロジェクトだ。

今回の展示ではものづくりの本質とは何か?という原点に立ち戻り、さらに GINZA SIXだからこそできること、伝えていくべきことって何だろうと、根源を考えていきました。日々、さまざまなものが作られていますが、その素材がどのような環境で生まれ、どのような工程を経て人々の手に渡るのかなど、完成したプロダクトからは、なかなか見えてこない背景や隠れてしまっている部分がたくさんある。素材の成り立ち、ものが成形される過程、そして人々に届くまでの流通…。そういうものづくりの核となる部分にフォーカスして、じっくり時間をかけてプロセスを見せていくことが重要なんじゃないかな、と。その過程をアートとして表現できるのは、これまでアートやカルチャーに力をいれてきた基盤を持つ商業施設だからこそできることであり、やる意味があると思うんです」(中村さん)

木を伐採し、流通し、
作品になる。

素材が主役となるアート展示という視点で中村さんが着目したのが、奈良県吉野林業地帯で採れる日本を代表する建築材や木工製品の材料として知られる吉野杉だ。

「木材という資材は、建築材という大きなものから、箸などの本当に日常的な小さなピースに至るまで、昔から日本社会を支えてきている、とても重要な素材です。数ある木材の中から、より日本らしさを打ち出すという意味で注目したのが、吉野杉です。日本を代表する杉材の名所であり世界遺産にもなっている吉野エリアで生まれた木を使い、切るところからものができていくところまでをフォーカスして、じっくり掘りさげていきたいと思ったんです」(中村さん)

自然の恩恵で
ものづくりをする意味。

かつて人の手により植樹され、長い年月をかけて森に育まれた吉野杉。それをただの素材として語るにはあまりにも雄大だ。実際に山に入り、伐採の様子を目の当たりにしなければ感じ得なかったものもあるという。

「吉野の山に入って何より強く感じたのは、神聖な山に対する地元の方々の自然に対する畏敬の念です。森の入り口には祠があって山に入る前には必ずお祈りをしてから行くとか、山に入ってはいけない日や作法など、僕らでは理解できないような神様の話もいろいろある。一本の木が倒れる時の雄大さ、そして怖さ。それは想像の何倍もすごいものでした。傾斜地に生えた木を切るために、倒れる方向や角度を細かく計算しながら切るのですが、想像を上回る労力と時間が必要なんだと。天然の材料を扱うという意味で、とても勉強になりましたし、ものを作るという行為の責任をより強く感じましたね」(中村さん)

直接協業し、
林業の新たなフェーズを
模索する

中村さんと吉野杉との出合いは、2年前に遡る。奈良・奥大和をトレッキングしながら、作品を通して雄大な自然を体験するという芸術祭「MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館」への参加がきっかけだったという。

「1ヶ月間吉野エリアに滞在して、林業に携わる方々と交流し、毎晩いろんな話を聞きました。その中で、かつては高級木材と謳われた杉材の需要が低下し、木材の値段がどんどん下がり、林業という業種自体が衰退してきている現状を知りました。その原因の一つが、流通経路が非常に複雑になっていてブラックボックス化されていること。カスタマーに届くときの値段はとても高いのに、木を切ったときの値段が非常に安いという状況が生まれ、より使われにくくなっている。そういったことをある程度打開していかないと、この先、林業はますます衰退していってしまう。僕らのような設計を生業にしている人間が何かできることはないか。木材の素晴らしさも含めて、流通経路の見直しみたいなところも裏テーマとして持つことで、何か違う新しいフェーズになるきっかけになれば。そんな期待も含めて、芸術祭をきっかけに出会った豊永林業さん、大谷木材さんと直接契約をしてこのプロジェクトに取り組んでいます」(中村さん)

強くて軽い、吉野杉の魅力

杉という天然木材とじっくり向き合い、改めて吉野杉の持つ可能性と魅力を実感したという中村さん。プロジェクトの第一フェーズとして、吉野杉を使った家具が館内を彩る。

「一般的には、杉は木目があまり美しくないと言われているようですけど、それも使い方によるんですよね。なので、今回の第一フェーズでは、あえてデザイン性を抑えて、製材屋の大谷木材さんが普段やっている木材のカットをそのまま生かしたベンチを作りました。通常、一本の丸太を、芯の部分、フローリング材や集成材など部位に応じて切り分けていくのですが、そのカットだけでも十分美しい。僕たち〈DAIKEI MILLS〉がしたことといえば、切り分けられた木材を少し組み変えただけです。杉は、強いのに軽いので什器としての使い勝手が良い。そして無垢材の良さ、雄大さや質感も素晴らしいですね」(中村さん)

一本の丸太が、
そのまま作品になる。

「デザイン性を抑えて木材を少し組み変えただけ」と中村さんは言うが、一本の丸太から切り取られたベンチやスツールは、伐採された木が製材される流れを感じさせる現代的な作品となっている。通常の建材用に使われるカットがそのまま生かされ、いかに木材が無駄なくカットされているかが見てとれるし、間を生かした置き方や木目の向きを変えて並べ替えるだけで、年輪のデザイン性が一気に高まる。また角材を束ねる結束バンドも、実際に製材所で流通の際に使っているプロセスをそのまま生かしている。

大きな丸太のベンチは、剥ぎたての木肌を生かし、丸太から角材が飛び出したような存在感のある作品だ。普段あまり目にすることのないこうした製材の工程を目の当たりにすると、丸太に宿る生命力や素材としての力強さを感じずにはいられない。人の手が生み出した作品でありながら、森の臨場感さえ伝わってくるようだ。

「アートピースであり、実際に触れて、使えるプロダクトでもある。最先端のファッションやアートが詰まったGINZA SIXの中に、これらの無垢材のベンチが突然出現するので、そのコントラストだけでも十分面白い演出になると思います」(中村さん)

丸太1本から始まる、
コミュニケーションツール

中村さんといえば、都市の中に存在する遊休施設を時限的に占有して一般へと解放する運動〈SKWAT〉を牽引し、都市における新たな循環を生み出してきた立役者でもある。今回のGINZA SIXの展示でも、3年間かけて吉野杉という素材が形を変え、空間を彩り、訪れる人々とのコミュニケーションツールになるような仕掛けが待ち受けているという。

「第二フェーズとして、国内外で活躍する6組のアーティストによるプロダクトを展開予定です。素材へのリスペクトがあり、真摯に向き合ってくれるようなアーティストたちに声をかけさせてもらいました。各アーティストに1本20mの丸太を渡し、その内の4mを使って自由にプロダクトを制作してもらいます。僕たちもどんなプロダクトが生まれるのか非常に楽しみですね。

その後、第三フェーズでは、同アーティストたちに20mのうち残りの16mを自由に使ってもらい、小さな建築にも挑戦してもらいます。そこにコンテンツを入れていき、例えばカフェになったり、DJブースになったり、時にはブックストアになったり。館内でそういった小さなイベントをできるポップアップ装置として分散し、コミュニティスペースとして展開していく。そして、第一フェーズ、第二フェーズ、第三フェーズを通して、その一連の流れをお客様も実際に目撃できるという試みです」(中村さん)

屋上に吉野杉を使った
アートパークも登場

屋上では、子ども連れのお客様や海外からのゲストにも喜ばれそうな、吉野杉を使ったアートパークも登場する。

「HAKUTEN CREATIVEとの協業で作るアートパークに登場する吉野杉には、『背割り』という乾燥による材面の割れを防止・軽減させるための製材工法が施されています。昼は子どもたちがステップを飛び跳ねたり、夜にはこの『背割り』を用いた光の演出で、昼には見られなかった幻想的な光の演出が楽しめます。

アートとの親和性が高いGINZA SIXだからこそ、例えばそこに一本丸太が置いてあるだけでも、これもアートなのではないか⁈と、いい意味で錯覚に陥ってくれる部分がある。そういう点からも、吉野杉という天然素材を全面に打ち出した今回のプロジェクト〈A Tree〉をGINZA SIXでやることに非常に意味があると思います」(中村さん)

〈A Tree|エイ・ツリー〉[第一フェーズ]

制作者
DAIKEI MILLS / 豊永林業 / 大谷木材
展示場所
3F~5F 中央吹き抜け周りレストスペース
展示期間
2025年4月17日(木)~
DAIKEI MILLS 中村圭佑

DAIKEI MILLS

だいけい・みるず/東京を拠点に活動する設計事務所。CIBONE、ISSEY MIYAKE、NOT A HOTEL、LEMAIREなどの商業空間からavex、kontakt、Takramなどのクリエイティブ企業のオフィスまでさまざまなプロジェクトに取り組み、人と空間の在り方について一貫してデザインの実践を通して考え続けている。

中村圭佑

なかむら・けいすけ/1983年生まれ。設計事務所「DAIKEI MILLS」、「SKWAT」代表。2009年に多目的フリースペース「VACANT」を、2011年に設計事務所「DAIKEI MILLS」を設立。2020年より都市に存在するVOID(遊休施設や社会的隙間)を時限的に占有し、一般へ解放する運動「SKWAT」を始動。JRの綾瀬駅〜亀有駅間を再開発した、高架下の芸術文化センター「SKAC」を展開。2021年より多摩美術大学 建築・環境デザイン学科の非常勤講師も勤める。

https://www.instagram.com/skwat.site/ https://www.instagram.com/daikei_mills/
豊永林業株式会社

豊永林業株式会社

ほうえいりんぎょうかぶしきがいしゃ/1967年設立。日本で最も早く人工造林が始まった吉野の林業地で、現在16代目にあたる山主が所有する1500ヘクタールもの山林を管理。地拵え、植栽、下刈り、枝打ち、間伐など、日々山の整備に勤しむ。

https://houeiforestry.com
株式会社大谷木材

株式会社大谷木材

かぶしきがいしゃおおたにもくざい/大正4年創業。奈良県下市町にて製材所を営む。地元吉野の銘木をはじめ県産材を中心に、素材の魅力を活かした品質の良い木材を造り出す。歴史博物館や店舗用の建築材、メディア向けのセット用材木など納材先は多岐にわたる。多くの家庭に無垢材を取り入れてもらいたい思いで、テーブルやまな板製作にも取り組む。

https://ohtani-mokuzai.com

[CREDIT]

Photos:
MEGUMI(tokyo), Yoshinori Kataoka [INFOCUS](Yoshino)
Text:
Chisa Nishinoiri
Web design:
Tomohiro Tadaki [Thaichi]
Edit & Produce:
Hitoshi Matsuo [EDIT LIFE], Rina Kawabe [EDIT LIFE]