GSIX

小鼓から紐解く能楽の世界を学ぶ
「LOUNGE SIX CREATIVE SALON」Vol.3が開催

GINZA SIXのVIP会員限定のクリエイティブな学びの場として、“NIPPON”をテーマにしたリベラル・アーツの世界で活躍するアーティストを迎えての「LOUNGE SIX CREATIVE SALON」(全6回)。第1回はチームラボ代表の猪子寿之さん、第2回は奈良と仏教をメインテーマに活躍する帝塚山大学教授の西山厚さん、そして11月11日(日)に行われた第3回は能楽小鼓方の大倉流十六世宗家で、2017年に重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された大倉源次郎さんが登場。15組30名のゲストにはGINZA SIXのB2Fのショップ「ベッジュマン&バートン」のグリーンティベースのフレーバーティ、「カフェ・ユーロップ」のロールケーキがもてなされ、ささやかなおやつの時間の後、いよいよ会がスタートする。

通常の能公演以外に、能楽の歴史再発見のための活動を行なってきたことでも知られる大倉さんがこの日持参していたのは、美しい蒔絵が施された桜の木による3種類の「鼓胴」。「江戸初期や安土桃山期に作られたもので、春の象徴である桜に対し織物に描かれた秋草、卵から生まれたうずらの雛がピヨピヨと泣く姿に対し雅楽の楽器である笙(しょう)などを描いていて、自然と人口という二元対比の中で能楽の音の調和を模索しようとした、先人からの投げかけを感じます」と語り始めた大倉さんの言葉に、囃子方の視座から紐解く能楽の世界が一気に広がり始める。

他にも手で打つ部分には子馬の革を使い、100年〜150年くらい打ち続けてようやく舞台で使えるようになること。その革が伸びてしまわないように、革と「鼓胴」は都度、紐で組み上げること。小鼓は天と地や陰と陽を打ち分ける楽器であり、「間(ま)の芸術」と言われる能は、音ではなく間を聴くためにあること。雛祭りの雛壇に飾られている謡、笛、小鼓、大鼓、太鼓の「五人囃子」が能の楽器構成であること…。そんな入門編の話が尽きない一方で、大倉さんがゲストに向かってグーに握った左手を小鼓に見立て、右手をパーに開き、両手を右肩に持っていくように指導。国内外の講演でもよく実施するという、命名“エアー小鼓”に全員が挑戦してみる一幕も。なんと大倉さんの掛け声も入り、人間国宝とのしばしの共演にLOUNGE SIXが一体になった。

終盤にはGINZA SIXのB3Fにある観世能楽堂で公演を終えたばかりの観世流シテ方、坂口貴信さんが飛び入りで参加。大倉さんが「受け取り方を限定しない抽象芸術であるのが能楽。その中でも珍しく虫の声を表すような具象的な小鼓の音色によって虫の音も音楽に聞こえるという日本らしい感性の秋の名曲」と説明した『松虫』をお二人が披露する贅沢なサプライズも!

ちなみに紀元前からさまざまな民族により祭祀芸能が持ち込まれた日本で、14世紀になって観阿弥・世阿弥が娯楽としてそれらを集約するかたちで大成した能。古くは神や仏の存在を、伝説となった様々な事件を戯曲化したことで先人の知恵やときに過ちを伝え、江戸時代には徳川家康の命で「藩主や武士が能にうつつを抜かさないように」と全国の藩に誕生した能楽団の存在が、能を広め、天下太平を支えたとされる。
そんな長い文化の歴史の中で、能に限らずとも、日本の様々な伝統やその心の継承がいよいよ難しくなりつつある現代。最後に「先人の教えを通して、新しい自分を見つけてほしい」と語った大倉さんのレクチャーが、まさに私たちのルーツから改めて自分を見つめる時間となったのは言うまでもない。
なお、今後のCREATIVE SALONは、茶道家の木村宗慎さん(第4回)、落語家真打の春風亭一之輔さん(第5回)、世界からも注目を浴びる日本料理店「傳(でん)」店主の長谷川在佑さん(第6回)を迎えて開催予定。ゆったりとくつろぎの空間で第一線のアーティストと交流ができるまたとないひとときをお見逃しなく。

Text:Yuka Okada
Photos:Kiichi Niiyama