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GINZA SIX EDITORS

ファッション、ジュエリー&ウォッチ、ライフスタイル、ビューティ、フード…。各ジャンルに精通する個性豊かなエディターたちが、GINZA SIXをぶらぶらと歩いて見つけた楽しみ方を綴ります。

Everyday Pleasures: Food Opens a Door to Happiness

仲山 今日子 フリージャーナリスト

「え、それ食べるんですか?」

今までどれほどそんなリアクションをされてきただろう。20数年前にアナウンサーとしてテレビ局に入り、食を中心とした文章を書く仕事に軸足を移した今に至るまで、食べものとの関わりは長い。子供の時分からの食への突出した好奇心が大人になっても抑えられないが故に、なんでもかんでも口にしては、度々人を戸惑わせてしまうのだ。最近「やってしまった」のは、三陸のアワビ養殖場で、アワビの餌を食べた時。他にもタンザニアの小さな街をぶらぶらしていて出会った人に連れて行ってもらったバラック小屋で、自家製のバナナ酒を勧められた時も「お腹を壊すかも」という恐怖心に好奇心が勝って口にした。だって、この機会を逃したら、一生口にできないかもしれない。もし人智を超えた美味だったとしたら、一生の不覚だ。

赤ちゃんが生まれて最初に発達するのは、嗅覚と味覚だ、という。そんな根源的な角度から世の中を見てみる、というとかっこいいが、ただ単に生まれ持っての好奇心と食い意地がハイブリッド化しただけである。

「あなたの食べたものを言ってごらんなさい、あなたがどんな人か当ててみよう」と言ったのはブリア・サヴァランだが、かの美食の巨人に私のこんな雑食ぶりを伝えたら、なんと評されるのだろうか。考えるだに恐ろしい。

さて、そんな食いしん坊ぶりを買っていただき、銀座のお洒落さ・スタイリッシュさのキーワードを全部集めたような場所、「GINZA SIX」の地下2階に新たにオープンしたいくつかの新店舗を巡ってみた。

テーマは名付けて「まいにちの上質」。

これまで約50ヶ国を旅してきたが、各地で私のマニアックな食に対する好奇心を受け止めてくれたのが、市場やスーパーマーケットだ。端から端までをまさに食い入るように眺め(食べ)、いくら時間があっても足りない私がまず足を運んだのが「Bio c' Bon(ビオセボン)」(B2F)。パリに行くたびに食材やお土産を買うのに重宝していたお店が、2016年に日本に上陸。現在は国内26店舗を展開、最近になって全国のどの街からもオンラインでも購入できるようになったというから、あまりに朗報だ。

このGINZA SIX店は「あなたの暮らしにぴったりのものを選りすぐりました」という天の声が聞こえてくるようなセレクション。特にこの銀座の地で、オーガニックの果物、野菜、肉、卵、乳製品がたっぷりと揃うのが嬉しい。昔はオーガニック食材店と言えば、インポートの乾物ばかりだったが、こちらは約800アイテムが国産で、オーガニック認証を取得した商品も数多い。日本のオーガニックも、こんなに選択肢が広くなったのだと思うと、感無量。

それに…なんですか、この立派なホワイトアスパラガスは! メロンは! もう、食材そのものの圧がすごい。植物性飼料を食べて、のびのびと運動しながら育った秋川牧園の鶏肉は、水っぽくなく詰まった身質、しっかりとした赤身の色合いとクリーム色がかった脂肪の色。見るだけでわかります…あなたは…おいしいですね!!!「オーガニックだから」買うのではなくて、おいしそうだから買う、というめくるめく世界が広がっている。特に野菜や果物は、その時期限定のものも多い。気になったら逃さずに、は鉄則だ。

そして、さらには調味料類。「有機麻婆の素」(270円 ※以下全て税込価格)のようなお助け系調味料に至るまで、化学調味料無添加のものばかり。裏をひっくり返して何が入っているのかな? といちいちチェックしなくても、ぽんぽんカゴに入れられる安心感。一般的に添加物の多いともされるスプレッド系は敬遠していたけれど、ここにある「プラントベース・有機スプレッド」(638円)は、オーガニックの菜種油やアーモンドバター、レモンジュースなどを使って作ったもの。乳化剤はひまわりのレシチンなど、すべてが植物性。ここまでこだわってくれているなら、ご存じ数多くのセレブリティもやっているというヴィーガンを、週イチで取り入れる「ゆるヴィーガン」をやってみてもいいかも?

「大人のガチャガチャ」とでも言うべき、量り売りのドライフルーツは、インカベリーや2種類のデーツ、発芽ナッツなど、それなに?と好奇心をくすぐるものばかり。気になるものをかたっぱしから選んでも、少量・食べきりサイズの20グラムから買えるから、毎日のヘルシーなおやつにぴったり。光沢材不使用のアーモンドチョコレートは、ローストの香ばしさと甘さ控えめのチョコレートがマッチした大人の味。

なかには、日本ではなかなか手に入らない珍しい商品も。例えば、パプアニューギニア産のコーヒー(1,620円)。手摘み、または手選りされたピーベリー(一粒に通常2つの豆が入っているところ、一つより果実味が強い)を輸入しているという。パプアニューギニアは、チョコレートの取材で訪れたことがあるけれど、まさにジャングルの秘境。おそらく私と同じく食いっ気あふれるバイヤーさん、お会いしたことはないけど、ありがとう!

続いて足を向けたのは、フカヒレのシルエットを染め抜いた白い暖簾の向こうにカウンター席が並ぶ「自由が丘蔭山楼」(B2F)。フカヒレの老舗「筑紫楼」で料理長を務めた蔭山健一さんが手がける同店が、シグネチャーでもある高級食材のフカヒレを気軽に楽しんでもらえる店を、とフカヒレ麺に特化した店をオープン。肩肘はらずに上質を味わう「お気軽ラグジュアリー」はこれからの時代によりニーズが高まってきそうな予感。

お酒もグラスで気軽に楽しめるので、+748円の「点心とデザートのセット」を頼んで、アルコールはグラスのスパークリングワイン(968円)、〆にフカヒレラーメン、というチョイ飲みにもぴったり。

さて、やってきたフカヒレ麺(3種類あるうちのこちらは特大)は、ドーンと100グラム。丼全体がフカヒレで覆われちゃってます! 丼の水平線まで広がる見渡す限りの一面のフカヒレは「映え感」も抜群。醤油やオイスターソース控えめの明るい色合い、上のフカヒレ部分は「10リットルのスープを作るのに、鶏の手羽先10キロを使ってます」という、もはや「飲む手羽先」とでも言うべき濃厚白湯ベースのあんかけで、オーセンティックな味わいを実現しつつ、下は柚子を効かせたさっぱりとした鶏出汁をひそませるという二層仕立てで軽やかに。麺は小麦の味わいが楽しめてスープがしっかりと絡む、浅草開化楼の中太のちぢれ麺。

軽く混ぜていただくと、濃厚なコラーゲンに包まれたプリプリのフカヒレともっちり麺、あと味にすっきりとした柚子の香りが追いかけてきて、口の中に広がるのは陶然たる癒しの世界。

でも、ちょっと待って。使っているのはヨシキリザメ、100グラムだと専門店では通常1万円くらいするはず。もはや原価割れでは? 特大サイズでも3,608円というお手頃価格の実現はいかに?

聞けば「長年の問屋さんとの信頼関係と、尾びれでなく胸びれを使うこと」とは店長の伊藤達哉さんの弁。実際食べてみての感想は、胸びれの方がやや薄いけれど、逆にほぐしやすいので食べやすく、麺との一体感が感じられるかも。しっかりとコラーゲンチャージし、ほくほくしながらセットデザートのふわとろ杏仁豆腐を食べていると、「実は、持ち帰り専用で他にも6種類杏仁豆腐があって。それも、GINZA SIX店限定なんですよ…」とやはり店長から悪魔のささやき。なんですと??

しかも、それをつくっているのは、なんと銀座のマキシム・ド・パリの元4代目料理長でもあった、もう一人のイトウさんこと伊藤正顕さんだという。銀座のマキシム・ド・パリの初代料理長といえば、フランスで50年以上の三つ星を誇る「トロワグロ」のピエール・トロワグロさん。そんな歴史を受け継いだシェフが生み出す…杏仁…豆腐!?

どんなにお腹がいっぱいでも、もちろん逃すわけにはいきません。別腹に緊急出動を要請致しますッ!!

先ほどのセットデザートと比べると、フレンチらしいクリームのコクが感じられるベースに、カラフルなフルーツなどが乗ったGINZA SIX限定杏仁豆腐。日々店頭にも立つ伊藤さんにお話を聞くと、例えばエキゾティックな「ライチ」(842円)の下の紫色のゼリーは、その鮮やかな色付けのために、ほうれん草などから緑色の色素をとる「クロロフィル(青寄せ)」の手法を応用して、紫キャベツから色素を。他にキウイに砂糖とミントでマリネしたトマトとマスカルポーネムースを添えた「キウイフルーツ&マスカルポーネ」(842円)なども、キュートな見た目の裏に、フランス料理のシェフならではの技やアイデアがしっかりと活きている。

てっきり監修だけをされているのかと思ったら「いえ、毎朝ボクがここで手作りしてます、鮮度の良いものを味わって欲しいですから」と伊藤さん。確かに、伊藤さん一押しの「ストロベリー」(842円)も、既製品のピュレではなく、フレッシュなイチゴで作った新鮮な味わい。ゆくゆくは、フレンチと中華を融合したヌーベルシノワのメニュー展開もしていきたいのだとか。楽しみ!

そしてラストは「Signifiant Signifié + plus (シニフィアン シニフィエ プラス)」。シニフィアン シニフィエといえば、個人的にも大好きな志賀勝栄さんのパンが楽しめる世田谷区太子堂を本店とする有名店。長時間発酵、高加水で、外側はカリッと、内側はもっちり。気泡がツヤリとした、美しい切り口を見ると、ついついニヤニヤしてしまう。

では、プラスって何? といえば、GINZA SIX店ではパンだけでなく、なんと量り売りのワインも購入できる嬉しさ。そう、ここはパンとワインの幸せなマリアージュを楽しむ店なのだ。

小麦粉と発酵の香り漂うバゲットはもちろん、たっぷりのナッツやドライフルーツ、スパイスなどを練り込んだ志賀さんのパンは、もはやおつまみパンと呼ばせていただきたい。

さらにパンとワインに合うプラスアルファの味を、ということで、季節ごとに変わるショーケースには、今イタリア産のチョコレートが並ぶ。

子どもの頃、フランスではバゲットにチョコレートを挟んだものがオヤツだ、と聞いて、なんてお洒落な、と羨んだものだけれど、あの頃の自分に教えてあげたい。大人になった私は、自分へのご褒美に、赤ワインをたっぷりと生地に練り込んだ「パン オ ヴァン」(ハーフ・2,160円)に、この「ラズベリーと66%ダークチョコレート」(1,080円)を挟み、赤ワインと共に楽しむことだってできるのだ、と。

クグロフやパネトーネのような「お菓子系」だけでなく、人気のパン ド ミ(1,296円)もギフトボックス(275円)に入れてもらえるから、お持たせにも◎。

量り売りワインはイタリア産ワインを中心に月替りで、250ml(770円〜)は、ちょうどワイングラス2杯分。一人で楽しむのもよし、赤と白を買って二人で楽しむのも良さそう。もちろん1ボトル単位でも購入できる。

すなわち、ダイヤモンドのように眩しい輝きということではなく、連なった真珠玉のように、穏やかな幸せがずっと続いていくこと。GINZA SIXで出会ったそんなまいにちの時間にぴったりと寄り添う店の数々は、私の「やってしまい」がちな好奇心を静かに満たしてくれた。

世の中でどんな嵐が吹き荒れようとも、今という時間はすぎていく。だったら、私の今を大切に、慈しんで生きていきたい。晴れた日も、雨の日も、心穏やかなひと時のそばに、ふといてくれるおいしいものたち。私たちは、食べたものでできている。丁寧に作られたものをいただくことは、自分自身を慈しむこと。そうですよね、ブリア・サヴァランさん?

Text: Kyoko Nakayama Photos: Kanako Noguchi Edit: Yuka Okada(81)

GINZA SIX EDITORS Vol.111

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仲山 今日子

テレビ山梨・テレビ神奈川アナウンサーなどを経て、現在は世界の美食について、シンガポール・イタリアなど海外と日本の新聞・雑誌などに英語・日本語で執筆中。パリを拠点とするThe World Restaurant Awards審査員も務める。趣味は海外秘境旅行で、キリマンジャロ登頂など、食+αの冒険を追求すること。ワインエキスパートや日本酒唎酒師の資格も取得し、ワインや日本酒はもちろん、パンやチーズ、チョコレート、コーヒーなど各種発酵系を愛好する。最新のおいしいものは、IG: @kyokonakayamatvにて。
Instagram GINZASIX_OFFICIALにて配信中

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2021.07.09 UP

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