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GINZA SIX EDITORS

ファッション、ジュエリー&ウォッチ、ライフスタイル、ビューティ、フード…。各ジャンルに精通する個性豊かなエディターたちが、GINZA SIXをぶらぶらと歩いて見つけた楽しみ方を綴ります。

A Power Spot in Ginza: Filling Up on Refined Luxury

藤岡 篤子

蒸し暑い東京にもそろそろ秋の気配が忍び寄る9月初旬。ヨーロッパのコレクション取材の直前だが、コレクションの下見?にGINZA SIXをぶらりと覗いてみた。クルーズコレクションやジャパンスペシャルがずらりと出揃うラグジュアリーなブティックが軒を連ねるGINZA SIXは、まるでパリのアヴェニューモンテーニュやミラノのモンテナポレオーネをそぞろ歩く楽しさだ。ファッションジャーナリストとして、頭に入れておきたい新しい情報が、目に飛び込んでくるし、思わず手にとって欲しくなるものもたくさん見つかる。誘惑と贅沢な体験に満ちた一時間半のショートトリップの始まりだ。
まず最初に訪れたのは蔦屋書店。

本の殿堂であり、ユニークな書籍の品揃えでも知られる蔦屋 銀座書店は、いつでも大のお気に入りだ。特にGINZA SIXで、訪れたいのがこの写真本のコーナー。特製の限定版がいつも何かしら置いてあり、頼めばこの日対応してくれた番場文章さんをはじめ、白い手袋をした写真コンシェルジュが丁寧な解説付きでページをめくってくれる。

今回のお目当は、英国の写真家デヴィッド・ベイリーの写真集(390,000円 ※以下全て税抜価格)。この巨大なサイズをより見やすく、楽しめるように特注された「マーク・ニューソン」デザインのデスクに置かれ(なんと写真集とデスクはセット売りだ) 、写真コーナーのエントランスを飾っている。ファッションを志し、うっとりと白黒の写真集を穴があくほど眺め、ロンドンに、ファッションに憧れた遠い時代、デヴィッド・ベイリーは、私のヒーローだった。階級制度が根強く残っていた英国で、魚屋の息子がトップフォトグラファーとして、世界のファッション誌を制覇し、サブカルチャーの主役に躍り出たのは、まさに60年代的なサクセスストーリーであり、古い体制社会が音を立てて崩れる、そんなロンドンのポップカルチャーの体現者であった。

60年代から現在に至るまで時代別に区切られた編集で、その時代に輝いたセレブリティを白黒でシャープに、時としてユーモラスに切り取った写真は、何回見ても飽きることがない。というより、何時間見ていても泉のようにイマジネーションが湧き出て、尽きるどころか、写真が、被写体の人生まで語り出す。

デヴィッド・ベイリーの恋人であるとともに60年代を制覇したスーパーモデルのジーン・シュリンプトン。日本ではツィッギーの方が有名だが、世界的にも、当時のファッション誌では、断然ジーンがビッグであった。あのアメリカンヴォーグの名編集長ダイアナ・ブリーランドが、ジーンが、ずぶ濡れになって初対面に駆けつけた時、「まあ完璧なかわい子ちゃんだわ」というセリフを吐いたと言われる。パスポートの写真ですら完璧に美しかったと言われるスィンギングロンドンの伝説的ミューズだ。デヴィットが撮り下ろしたジーンとのファッションフォトは雑誌のカバーを飾った無数の傑作があり、一部がこの写真集に収められている。デヴィッド・ベイリーは、ジーンと別れた後、カトリーヌ・ドヌーヴと結婚し、その後別れた。

あ〜ここにもフェデリコ・フェリーニ(監督)とマストロヤンニが、ここにはジャンヌ・モローが!!とページをめくるたびに、デヴィッドのエッセンスがこぼれ落ちるように放たれ、どのポートレートを見ても、思わず笑みがこぼれてしまう。いつまでも眺めていると、そろそろ時間が…とせかされ、しぶしぶ次のページに。

ファッションとサブカルチャーは強い結びつきがあり、写真、音楽、文学、アート、ダンス様々な要素がクリエイターを刺激する。着想源の一つが60年代、70年代であり、その時代を象徴する人物が、キャラクターにふさわしい切り撮られ方をした写真は、被写体以上に本質を表現し、時には事態を予測したりする。目下公開中の話題の映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』に登場した「シャロン・テート事件」(※1969年にその夫だったロマン・ポランスキー監督の豪邸で、彼がロンドンで撮影中、妊娠8か月だったシャロンと、一緒にいた彼女の元婚約者で有名ヘア・デザイナーのジェイ・セブリングら友人が、殺害された事件)の主人公女優シャロン・テートは短い結婚生活を、監督ロマン・ポランスキーと送ったが、悲劇が襲う前の、二人の幸せの絶頂がこの写真一枚に語り尽くされている。犯人がカルト集団の教祖チャールズ・マンソンとファミリーだったというのも、ヒッピーがカルト化した時代背景を感じさせる。

気分を変えて、次はイタリアのゴージャスなシューズブランド「GIUSEPPE ZANOTTI(ジュゼッペ ザノッティ)」へ。

ミラノコレクションの時のモンテナポレオーネ通りの賑わいときたら、もう華やかで、アロマの良い香りが漂い、いつまでも住人のような顔をして通りで立ち話をしていたいほどだ。中でもひときわ人だかりが絶えないのが「ジュゼッペ ザノッティ」のブティック。GINZA SIXのブティックにも、その贅を尽くしたアイコニックなシューズがずらりと並ぶ。

ザノッティといえば、これでしょう! ゴールドのメタルヒールに刻印を押したような凹凸模様が刻まれている白いブーツ。これだけ華やかな「白×ゴールド」という組み合わせが、シンプルに見えるのは洗練というジュゼッペ・ザノッティの魔法がかけられているから。冬に白いブーツを履くという粋さ。この一足があれば、どんな着こなしもお洒落なミラノマダム流に変貌してしまいそう。

ジュゼッペ ザノッティの魔法その2。この輝きこそ、このブランドの真髄だ。モンテナポレオーネのショールームで開催される展示会でも、毎シーズン欠かさず、提案されてくるのが、絢爛と足元を彩るジュエリーシューズ(上写真は220,000円)だ。手の指にダイアモンドの指輪をするように、足元も、優美なジュエリーで装いたい。それも周りの人たちが息を飲むような華麗さで。レッドカーペットやイブニングにジャストフィットする眩しいほどの大輪の花の輝きが足首に光る。どういう人たちが、どんなドレスでこの靴を合わせるのだろう? 想像するだけでも、テンションが上がる。特別な時のためのとっておきのジュエリーシューズだ。

ジュゼッペ ザノッティ魔法その3。とうとう誘惑に負けそうになった。「お試しだけでも」という言葉に、ザノッティのラインアップの中では、比較的タウンユースの黒のフラットシューズ(105,000円)を選択。爪先にはシルバーのラインストーンのリボンが付いていて、ザノッティの香りが強く漂う。なんと、この時着ていたセーターとプリーツスカートという自分の定番ルックにも、似合うではないか…。イブニングドレスだけではなく、普通の街着にも、素敵に履きこなせるという発見。ザノッティの魅惑の世界にもうノックアウト。

イタリアブランドは、やはり女性の心を鷲掴みにする。導かれるように次は「FENDI(フェンディ)」のブティックへ。

ローマの毛皮の老舗フェンディ。GINZA SIXでも銀座中央通り添いのコーナーにブティックを構えている。1925年の創業だが、5人の娘たちが後継者となってさらにモダンな味わいに発展させ、現在は三代目にあたるシルヴィア・フェンディがデザイン分野を担当している。1965年に弱冠27歳であったカール・ラガーフェルドと契約し、その54年間という長きに渡るコラボレーションはフェンディの歴史の「華」である。残念ながら今年の2月フェンディのコレクションショーの2日前にカール・ラガーフェルドは逝去したが、最後まで電話でコレクションへの指示を出していたという。誰も亡くなるなど予想もしなかった突然の出来事であった。カールの偉業を讃え、ショーの最後に流れたデヴィッド・ボウイの「HERO」が、今も耳に残る。今回ブティックを訪れた理由の一つは、1981年にカールが自筆で書いた「カリグラフィ(文字を美しく見せる書法、日本での書道に近い)」によるFFロゴ「カーリグラフィー」がいくつかのアイテムに商品化されて展開されているという情報を聞きつけたからだ。ファーのコートから、バッグのバックルに至るまでありました! まるでカールの最後のメッセージのように、気品高く、存在感のあるFFロゴ「カーリグラフィー」は、一つは絶対に持っていたいカール・ラガーフェルドが後世に遺した贈り物ではないかと思う。

カール・ラガーフェルドの華麗なスケッチが、VIPルームに通じるエレベーターにも飾られ、フェンディとの強い絆を感じさせる。カール特有のキッチュな配色や流麗なスケッチは、フェンディに永遠の命を吹き込んでいる。

ただいま絶大な人気を誇るバッグ「ピーカブー エックスライト」にクロコダイル製のビッグサイズ(3,500,000円)が出現。書類もバンバン入り、仕事にも使い勝手が良さそうな大きさに、思わず手が伸びる。明るいブラウンのクロコダイルは、どんなスタイルにも、しっくり似合い幅広く使えそうだ。驚くほど軽量に仕立てられ、さすが職人技が光るフェンディならではのメゾンの奥深さを感じさせる。

相変わらず人気が高いのがフェンディの歴史とともにある、このFFロゴだ。1969年に毛皮コートのプレタポルテを発表し、その時まで裏地に用いられていたFFロゴを初めて表側に使い、以来ブランドを象徴するアイコンとなった。人気バッグのバゲットを始め、ジャカードやプリント使い、またファーアクセントとして様々なアイテムに用いられている。このテーラードコート(516,000円)は、ゴージャスにユーモラスにFFロゴの毛皮のポケットがアクセントになっている。

やっぱりフェンディに来たなら、メゾンのアイコンである最高級の毛皮を手に通してみたい…。柔らかな毛足の感触に包まれ、心も身体も癒されるような幸せ。そう思うのは女性なら誰しも共感できるのではと思う。丁寧に着れば100年は持つとも言われ、親子三代着用した後は土にも還る。4FのVIPルームで、専属の毛皮エキスパートのアドバイスを受けながら、あれこれ手を通して見るのは、まさに至福の時である。この白黒のブルゾン(23,681,000円)は、格調の高さはイブニングにはもちろん、意外にスポーティなジーンズにも合いそう。とは言え、最高級のボブキャットを使い、ここまでカジュアルなデザインに落とし込むとは、センスと技術の両輪を備えるフェンディの素晴らしさにますます魅了されていく。

ミラノやパリのラグジュアリーブランドの最高峰を短時間で何軒も訪れることができ、丁寧で行き届いた接客態度に、商品の品質の高さだけではない老舗の底力を味わう醍醐味。それは海外の有名な通りだけではなく、GINZA SIXでも味わえる稀有な体験だ。私は、ブランドの真の力とは、技術だけでも、デザインだけでもないブティックの対応も含めた総合力の高さにあると信じている。そのクオリティの高さを実感できるGINZA SIXは、そぞろ歩くだけでも、贅沢なオーラを浴びることができそうな、ひょっとしたら銀座のパワースポットのような存在かもしれない。

Text:Atsuko Fujioka Photos:Kanako Noguchi Edit:Yuka Okada(edit81)

GINZA SIX EDITORS Vol.86

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藤岡 篤子

国際羊毛事務局(IWS)婦人服ファッションコーディネーターを経て、ファッションジャーナリストとして活動を開始。朝日新聞、毎日新聞、AERA、FIGARO japonなど、新聞からファッション誌まで幅広いメディアに執筆。また、連載は25ans、GINGER、GIZELEなどの日本のファッション誌にとどまらず、中国版RayやGlamorousなどにも掲載中。情報知識辞典「イミダス」のファッション分野の執筆編集も担当し、ケータイ版イミダス(http://imidas.jp)でファッション用語を解説する「花のランウェイ」は大人気。専門用語を分かりやすく解説する原稿には定評があり、家電、化粧品など異業種企業、団体等の講演も多い。年2回開催される「藤岡篤子ファッション・トレンド速報セミナー」は、編集者、アパレルのバイヤーやデザイナーなどを中心に高い評価を受け、日本一の動員数となっている。著作『買い手が変われば売り手が変わる』(日本能率協会)。社団法人日本流行色協会ファッションアドバイザー。日仏協会 理事。2016年度より、神戸芸術工科大学芸術工学部ファッションデザイン学科客員教授に就任。
Instagram GINZASIX_OFFICIALにて配信中

2019.09.26 UP

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