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GINZA SIX EDITORS

ファッション、ジュエリー&ウォッチ、ライフスタイル、ビューティ、フード…。各ジャンルに精通する個性豊かなエディターたちが、GINZA SIXをぶらぶらと歩いて見つけた楽しみ方を綴ります。

GINZA SIX—Even If You Have Just Six Minutes

山崎 貴之

親譲りのせっかちで子供の時から損ばかりしている。ファッション誌編集という職業柄、プレス関係のイベントに出席すべく毎日慌しく動いているが、せっかちなだけに一つの場所に長居ができない。落ち着かない。予定をどんどん前倒しにして各所を回る。疲れもたまる。
銀座は頻繁に立ち寄るエリアだが、よくあるのが「某ブランドの銀座店でのパーティに、開場15分前に着いてしまった」というケース。その場で待つには長いし、喫茶店で落ち着くには短い。徒歩移動を考慮すると自由になるのは実質5、6分だが、束の間であっても仕事を忘れて気持ちを切り替えたい。こんなときはたいていGINZA SIXを訪れる。「GINZA SIXで6分間だけ」。この状況において、どのショップで何をするか? アイデアはいくつかある。

下りエスカレーターに滑り込みB2F「Café Europe(カフェ・ユーロップ)」へ。モボ・モガ文化華やかな1920年代に銀座で開業していた伝説のカフェを復活させたのがこちら。目当ては銀座珈琲ゼリーとコーヒーのセット(1,050円 ※以下全て税別価格)。イートインスペースは混んでいても回転が早いし、ほとんどの場合座れる。

コーヒーゼリーは無糖でしっかり苦味も効いたもの。サトウキビを煮詰めた素朴な黒糖「パネラ」をぱらっとふりかけ、甘みを加えつつパクリと。

カフェインと糖分で一気に覚醒。ゼリーは注文から即サーブされるし、コーヒーはちゃんとハンドドリップで、落ちるのにかかるのは1分半程度。5分もあればすべてお腹に入れて満足できるし、意気揚々と次の目的地へと向かえる。

取材も駆け足。6Fの銀座 蔦屋書店もちょくちょく覗くが、今日の目当ては本や雑誌ではない。

買い物する時間がないときの気分転換にはウィンドウショッピングがいい。それもとびきり夢のあるやつ。ここで見たいのは刀! 蔦屋書店の日本刀コーナーは、現在でも制作を続ける刀工が手がける新しい日本刀を展示販売する。つまり現存する職人たちの作品を間近に見て、その気になれば入手できる場所だ。「よっしゃ、日本刀買ったるぞ!」なんて威勢のいい衝動買いは経験ないけど、刀剣はまじまじと見ていると不思議と欲しくなってくる。

中央の黒と朱のボロノイ図模様の匕首2振は、マーク・ニューソンによるデザイン。鞘と柄のセットで3,500万円也。現実味のなさが気持ちいい。さすがにこれは無理でも、頑張れば自分も買える刀はあるんじゃないか?

奈良県の刀匠、河内國平の手による脇差し。200万円。この値段設定、清水の舞台から飛び降りた気になれば…トランペットに憧れる子供よろしくウィンドウに近づきポヤーンとしていたところ、「こちらの刀、持ってみますか?」の声が。

耳元で囁いた、たおやかな和装の女性こそ蔦屋書店の吉村さん。えっ、こんなところで剥き身の日本刀持っていいの? オタオタしている間に吉村さんはウィンドウから脇差しを取り出し、取材のため特別に握らせてくれた。

ヌラリ! 美しい。我が手の先に刃文のきらめきが揺れる。銀座の真ん中で日本刀を手にしている事実に背筋が伸びる。吉村さんによれば、ここでは結構な頻度で実際に刀剣が売れるという。

「昨今は『刀剣乱舞』ブームで若い女性からの人気がすごいですね。この脇差しを作った河内國平さんのところにも『これで私に刀を作ってください!』と貯金を握りしめた若い女の子が直接来るそうです。日本刀の800年の歴史の中で初めて、女性が自分の意思で刀を欲しがる時代が到来したんですよ。」と吉村さんの話が弾む。あ、いけない。「6分間」どころではなく思わぬ長居をしてしまった。刀を戻して、いざ次へ。

「銀座の画廊」と聞くと敷居が高そうだが、5F「Artglorieux GALLERY OF TOKYO(アールグロリュー ギャラリー オブ トーキョー)」は気軽に入れるアートギャラリー。日本刀同様、もしも自分が買うならばと無責任な夢想が楽しい。先日訪れたときは、以前誌面で特集を作ったことのあるアレックス・カッツの作品を前に、自宅のどこに飾ろうかと脳内シミュレーションに浸った。この日の展示は「Precious Coral 6 color Collection~深海からの贈り物~宝石珊瑚」展。

「これってエイジャの赤石じゃ?」と目を見張ったが、集英社が世界に誇るマンガ「ジョジョの奇妙な冒険」に登場する宝石がこんなところにあるはずもない。当然のようにサンゴだ。ふう、焦らせやがって。落ち着いて値段を見たらば、4千万円オーバーで目が飛び出た。

草間彌生が飾られた奥の商談スペースを使う日は来るのだろうか。サンゴのショックで鞭が入り、最後のリフレッシュスペースへと足を早める。

再びB2Fへ戻り、「10FACTORY(テンファクトリー)」へ。夏目漱石「坊っちゃん」でもおなじみ、愛媛県松山に本拠地を置く“みかんの殿堂”だ。狙いはみかんの生搾りジュース(722円)。5~6分程度の短時間でも確実にパワーチャージできる。

生搾りジュースに使うみかんは、「不知火」と「甘平」の2品種から前者をチョイス。すぐさま低速ジューサーでギューッと絞りきってもらえる。低速とはいえ支払い後、2分もあればジュースは完成。

イートインスペースの止まり木で生搾りジュースを飲むと、体が蘇っていくのを実感する。普段なら、みかんの搾りカスがジューサーから排出されて行くのを無言でぼんやり眺めるのみだが、今日は取材。「いま飲んでらっしゃる不知火は、別名デコポンと言いまして先の尖った品種ですね。もうひとつの甘平は、硬くてシャキッとした口当たりですが、甘みが強い品種です。」と、明るくみかんの説明をしてくれたのは副店長。

詳しいのもそのはず、愛媛のみかん農家のご出身なのだそう。追加でみかんビール(630円)も注文し、ついつい6分間ではすまない無駄話に…

世界有数の高級ショッピング街としての銀座で、束の間の夢に浸るもよし。ビジネス街としての銀座でスピーディにリフレッシュメントを楽しむもよし。ただ、どのショップも時間をかければ、それだけ新しい発見がある。せっかちな自分ではあるが、次はもっとゆっくりとGINZA SIXをぶらついてみたい。

Text:Takayuki Yamasaki Photos:Yuichi Sugita Edit:Yuka Okada

GINZA SIX EDITORS Vol.75

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山崎 貴之

男性ファッション誌「UOMO」編集長。1972年生まれ。岡山県出身。1995年に集英社へ入社し「MORE」編集部に配属。その後「SPUR」へ異動し2015年より同誌編集長を務める。2017年より現職。
Instagram GINZASIX_OFFICIALにて配信中

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2019.03.04 UP

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