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GINZA SIX EDITORS

ファッション、ジュエリー&ウォッチ、ライフスタイル、ビューティ、フード…。各ジャンルに精通する個性豊かなエディターたちが、GINZA SIXをぶらぶらと歩いて見つけた楽しみ方を綴ります。

Power of Traditional Craft Adds Subtle Accent to Modern Ginza Space

田中 敦子

中央通りにその全容を現したとき、淡く発光する白い箱は、すでに銀座の風景でした。あくまで銀座の気品を保った、新しくも正統なランドマーク。なのにこの企画を受けるまで、GINZA SIXに足を踏み入れてなくて……。東京下町っ子ゆえ、幼いころから銀座の変化を見てきています。新陳代謝しながらも銀座であり続けるしなやかさを、愛してやまないのですが、オープン当初のバブル再来的な熱量に気圧されてしまい、少し落ち着いてから探索しようと保留しているうちに時間が過ぎてしまいました。猛省。アートや伝統工芸への取り組みに力を入れているというGINZA SIX。遅ればせながら、ゆるりと巡ってみましょう。ぜひ訪ねたかったのが4階の玉川堂。新潟県燕市に200年続く鎚起銅器の老舗です。

ここのショップデザインに、伝統工芸の次なるステージを予感しました。工房の職人たちがそれぞれ鎚目を入れた銅板で、天井、壁、床、テーブを覆い尽くした空間には、照らし合う曙色の光が満ちていて、多幸感に包まれます。棚に並ぶ薬缶や鍋、ポットは、確かな仕事によるシンプルなデザイン。

国内外の幅広い世代の心を捉えるそのラインナップにとって、これ以上の空間はないように思えます。感度の高い環境で、伝統工芸が内包するかっこよさをきっちり示しているのですから。工芸に追い風が吹いている昨今ですが、一過性のブームに消費されない伝統工芸の底力をこのショップから感じます。

注ぎ口まで鎚で叩いて一枚板から作られる薬缶は、玉川堂独自の高度な技術。その工程が一目でわかる見本も展示されています。

副店長の前原康予さん、スタッフの田中大和さん、それぞれ海外経験を経て日本の伝統工芸に目覚めたそう。工芸の伝え手にも、新しい風が吹いています。玉川堂のショップマークは鎚起銅器の大鎚目を家紋風にデザイン。

次は同じフロアで、隣合わせのD-BROSへ。グラフィックデザイン集団、DRAFTが手がけるプロダクトのショップでは、GINZA SIX出店に際して、デザイン×伝統工芸に挑戦。木造建築の柱や梁を彷彿とさせるインテリアには、伝統工法の継手や組手が施されています。

伝統工芸がデザインにすり寄るのでなく、また、デザインが伝統工芸の本質を壊すのでもなく、優れたグラフィックデザインの力で創出される伝統工芸や伝統文化のかたち。DRAFT代表、宮田識さんのブランディングは、調査や準備に徹底的に時間をかけるといいます。その職人的な向き合い方ならば、軽やかだけれど信頼できる、鮮度の高い伝統工芸の見え方が生まれるはず。

D-BROSのロングセラー、ビニールのフラワーベース。かさばらず、水を入れるとぷっくりと立つ花瓶には、切子(カットグラス)や江戸小紋のモチーフも。

GINZA SIXのオープンに向けて2年がかりで制作した大型の家紋帖にも、グラフィカルにアプローチ。

「日本のグラフィックデザインの原点といえば家紋。2万点にも及ぶ家紋の中から、私たちが面白いと思うものを350点選んで、越前和紙に印刷した和綴の家紋帖を作りました」とは、広報担当の藤谷恵里子さん。それぞれの家紋も面白いのですが、見開きで並べた組み合わせが絶妙。羽を広げた〝光琳蝙蝠〟と、爪を向き合わせた〝すえ五徳〟。なるほど、似ていますね。家紋デザインは、扇子や風呂敷、ハンカチーフのモチーフにも。温故知新のデザインが光ります。

新潟の地場産業、ヘラ絞りのお弁当箱もGINZA SIXのために生まれたもの。空気穴を開閉するつまみを使って密閉性を高めています。アジサイやトチの木をデザインした絵柄がチャーミング。伝統工芸との取り組みは、職人さんとの意思疎通に時間がかかるし、お客様への浸透にも時間がかかりますが、継続して取り組んでいくとのこと。きっとまた、思いがけないデザインで、伝統工芸の新しい側面に光を当ててくれそうです。

ところで、エレベーターホールに気になるアートがありました。遠目にはポップな花の集合体。近づいてみると、おお、江戸小紋のモチーフ。伝統と現代アートの融合は、GINZA SIXの見どころの一つ。アーティストの大巻伸嗣さんは、江戸小紋にあるモチーフを拡大して組み合わせ、さらにそれぞれの地を規則的な小紋柄で埋めています。鮫小紋や行儀、松葉。2、3、4、5階の南エレベーターホールに、表情の違う作品を展示。タイトルは「Echoes Infinity Immortal Flowers」。不滅の花は、永遠の繁栄にもつながる吉祥の花ですね。

6階に移動しましょう。蔦屋書店がアートに特化して展開するフロアには、仕事柄気になる書籍が目白押しなのですが、本日目指すのは、刀剣コーナー。驚きました、書店内に刀剣コーナーだなんて。

「このフロアを考えたとき、日本の最高の美術工芸はなんだろうと議論していくなかで、刀剣に行き着たんです」とはコンシェルジュの松本聡さん。実はこのフロアには、ジャンルごとにコンシェルジュが置かれているそうです。専門知識のある彼らに相談しながら書籍を選べるなんてワクワクします。

オープン当時話題となった、世界的な工業デザイナー、マーク・ニューソンがデザインしたaikuchiや、名匠・河内國平氏とその一門の現代作が陳列されている一方、古書から漫画まで、幅広い書籍揃えで、さらに刀剣のお手入れ道具あり、細部にまでこだわった刀剣ステーショナリーあり。平場という敷居のない場所ゆえか、気軽に立ち寄り刀剣に見入る人が後を絶たない風景も、新鮮です。

刀剣女子の登場や、ゲームの刀剣乱舞人気で盛り上がり、外国人ファンも多い刀剣。そんなムーブメントとはまた別に、私の専門である工芸目線から見ても、日本刀は、伝統工芸のレベルを高めた知られざる立役者。刀の技術が支える切れ味良い刃物があったから、江戸小紋の伊勢型紙もできたし、木工や竹工、金工、象牙など、様々な彫刻も精緻な仕上がりが可能になった。神器としても尊ばれ、総合的な美術品としての美しさを受け継ぎ、刀剣や刀装具の高い技術を持った職人が、廃刀令後に明治の超絶技巧を担いもしました。だから、このコーナーの存在がめっぽう嬉しい。

伝統工芸が生き抜くにはデザインの力が必要と言われて久しいのですが、たやすいことではありません。でも、GINZA SIXでは、パワーに満ちたかたちで実現できていている例をいくつも見ることができました。嬉しい誤算、と言ったら失礼かもしれませんが、しばらく通ってしまいそうです。

Text:Atsuko Tanaka Photos:Chihaya Kaminokawa Edit:Yuka Okada

GINZA SIX EDITORS Vol.13(Lifestyle)

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田中 敦子

出版社勤務を経て独立。工芸、きもの、日本文化を中心に、取材、執筆、編集をおこなう。雑誌「和樂」(小学館)の創刊、編集に参画。また「七緒」(プレジデント社)の監修を担当してきた。著書に『江戸の手わざ ちゃんとした人ちゃんとしたもの』(文化出版局)、『きものの花咲くころ』(主婦の友社)、『きもの自分流-リアルクローズ-入門』(小学館)、『もののみごと 江戸の粋を継ぐ職人たちの、確かな手わざと名デザイン。』(講談社)、『インドの更紗手帖 世界で愛される美しいテキスタイルデザイン』(誠文堂新光社)、『更紗 美しいテキスタイルデザインとその染色技法』(誠文堂新光社)他。染織、工芸の企画展プロデュースなども手がける。
Instagram GINZASIX_OFFICIALにて配信中

2017.11.27 UP

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