
Spring 「Floral Feast」
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日本では、馬肉を「さくら」、猪肉を「ぼたん」、鹿肉を「もみじ」、鶏肉を「かしわ」と呼ぶことがあります。これらは、肉の特徴を花や草木に例えた美しい別名です。その起源は、仏教の影響で肉食が禁じられていた江戸時代にあります。当時、肉を口にすることを公にはできず、肉食を連想させないようにするための隠語として生まれたと言われています。
よく見れば、それぞれの肉の色や質感が、花の色や葉の姿と響き合っています。直接的な表現を避け、自然や季節に結びついた「美しい草花」に喩えることで、和歌にも通じる風流を感じさせ、食材に優雅さと華やかさを添えています。
また「美しい草花」への喩えには生き物の命をいただくことへの感謝の気持ちや、供養の意識を込める意味もあったのかもしれません。例えば、現代でも「いただきます」という言葉に、命への感謝が込められているように。
肉食が一般的になった今でも、こうした別名にはどこか「粋」を感じさせる魅力があります。ただ食材を指し示すのではなく、言葉にひねりを効かせる洒落た遊び心。そして、間接的な表現の中に奥ゆかしさや品の良さを感じさせる「察する文化」。そうした美意識が、今なお息づいているのかもしれません。
今回制作した「お肉のお花」には、自然の美しさを生活に取り込む日本の感性と、命をいただくことへの感謝の気持ちを込めました。ぜひ、この花々を通じて、季節とともに楽しんでいただければと思います。
アートディレクター
佐藤 寧子