
スタイリスト四方さんが語る、「夏のベストセラー」誕生秘話
BRITISH MADE
Fashion
なにかとストレスの多い夏だからこそ、着心地快適で簡単に着映えする服が欲しい。そんなご要望に応えて誕生したグルカショーツ「ホワイトホール」とオープンカラーシャツ「ヘイスティングス」は、ともに夏のベストセラーとしてご好評をいただいています。一見ベーシックなようで、どちらも開発には相当な試行錯誤が。その誕生秘話を、企画ディレクションを務めたスタイリスト四方章敬さんが明かします。
【Gurkha Shorts “WHITEHALL”】
グルカショーツ「ホワイトホール」
ヴィンテージの“8本プリーツ”仕様を現代的に再現
ーー今やブリティッシュ メイドの夏を象徴するアイテムとなった「ホワイトホール」。誕生のきっかけは、オフィサーパンツ「ポーツマス」のヒットを受けて、その夏バージョンを開発したいと四方さんにご相談したことでしたよね。
[四方] そうですね。「ポーツマス」はブリティッシュ・ミリタリーをテーマにしたアイテムでしたので、その夏版といえばやっぱりグルカ……というところまではすぐに決まったのですが、そこから先は色々と苦心しました。ブリティッシュ メイドらしく、英国の歴史を継承した本格的な一着にしたい。とはいえ、過去の焼き直しではつまらない。そこでまず、ヴィンテージのグルカショーツを研究するところから始めました。ひとくちにグルカといっても、年代などによって様々なバリエーションがあります。そのなかで心惹かれたのが、1980年代に生産された一本でした。
ーーどんなところが目に留まりましたか?
[四方] まず、前だけでなく後ろ側にもプリーツがあること。前後それぞれ2プリーツなので、合わせて8本ものプリーツが入っていました。単純に後ろ姿のアクセントとなるだけでなく、立体的なシルエット美につながっているところがスタイリスト心に刺さったんです。後ろにもプリーツを入れることで、横方向だけでなく前後に膨らみをもたせることができる。つまり、ゆとりのあるシルエットでもダボっと見えないところがいいんですよね。
ーー「ホワイトホール」にも特徴的な8プリーツを取り入れつつ、全体のシルエットバランスは大幅に変更しています。
[四方] プリーツの深さや間隔、股上などはオフィサーパンツ「ポーツマス」のバランスに近づけています。それから丈も膝上付近まで短く変更しました。ヴィンテージに比べると全体的にすっきりとしていますが、イタリア系パンツブランドほど細くなく、ゆとりはしっかりと残しています。このあたりは「ポーツマス」をお持ちの方ならよくご存じかと思いますね。
ーーそして、8本プリーツならではの前後左右に広がるシルエットにより、360度どこから見ても美しい佇まいに仕上がっています。ですがこの仕様、思わぬ盲点がありましたよね。
[四方] プリーツを倍にしたことで、想像以上に生地の用尺(一着の服を作るために必要な生地の長さ)が必要に……。ショーツなのに普通のスラックスなみになってしまい、コストが大変なことになってしまいました。でも、短パンって気楽に買えてこそですから、あまりハードルが高いのは避けたい……。
ーーということで、価格については相当頑張っています(苦笑)
[四方] ご負担をおかけしてすみません! というわけで、一見わかりにくいのですがコストパフォーマンスは相当高いんですよ。
ーーもうひとつ大きなポイントとなったのが、ウエストの仕様ですよね。
[四方] はい。こちらも’80sヴィンテージをお手本にしています。左右を交差させてボタンで留めるグルカの定番的な設計ではなく、シンプルな2ボタン&サイドアジャスターという仕立てが気に入りました。定番グルカは見た目こそいいものの、やはり脱ぎはきがものすごく大変。グルカらしく、かつ機能的な設計の’80sグルカを見て、“これだ!”と閃いたんです。
ーーはきやすさという面では、さらにアップデートも行いました。
[四方] ’80sヴィンテージはボタンフライでしたが、「ホワイトホール」はジップフライに変更しました。やはりスムーズさが全然違いますからね。実際しばらくはいてみると、やっぱりジップでよかったと思いました。ちなみに、ボタンは水牛の角を使っています。ドレスパンツに使うような高級素材をあえて選んだのは、大人の日常着として上質さは欠かせないと思ったから。短パンのように軽いアイテムこそ、モノのよさにこだわりたいですからね。
ーーさて、今季の「ホワイトホール」は4色展開。すべてコットン100%で、“ドリル”とよばれるハリコシのある綾織りの生地を採用しています。
[四方] ウールなどを乗せて変化をつけてみようかとも思いましたが、やはりグルカといえばガシッとしたコットンかなと思って、素材は1つに絞りました。8本プリーツによって生まれる立体感を引き出すにも、うってつけの生地だと思いますね。骨太な印象ではありますが、ほのかに光沢があるので上品に合わせられるところも気に入っています。
四方さんはこの夏、こう合わせる!
「全身を淡色で統一すれば、ショートパンツも上品に着こなせます」
肩にかけたトップス:BRITISH MADE - スウェットシャツ/レスター ¥20,900-税込
シャツ:BRITISH MADE - オープンカラーシャツ/ヘイスティングス ¥20,900-税込
パンツ:BRITISH MADE - グルカショーツ/ホワイトホール ¥25,300-税込
シューズ:JOSEPH CHEANEY - HUDSON/ハドソン ¥92,400-税込
「真夏を意識して涼やかに、それでいて大人っぽさも感じさせるようスタイリングしました。ポイントは、淡いナチュラルカラーで全身を統一した色合わせ。オフホワイトの『ホワイトホール』にサンドベージュのオープンカラーシャツを合わせ、生成り色のスウェットを肩がけしてアクセントにしました。これくらい明るいトーンで統一する場合、普通のパンツだと結構難度高めなコーディネートになりがちなのですが、ショートパンツだと気負わず自然に馴染みますよ」(四方さん)
【Open Collar Shirt “HASTINGS”】
オープンカラーシャツ「ヘイスティングス」
“一枚で着映える開襟シャツ”をスタイリスト目線で追求
ーー「ヘイスティングス」と名づけたオープンカラーシャツがデビューしたのは昨年の春夏シーズン。発売直後から大きな反響をいただき、早くもベストセラーに仲間入りしたアイテムです。開襟シャツといえばクラシックな夏スタイルの定番といえるトップスですよね。
[四方] そうですね。リゾートからタウンユースまで、あらゆるシーンで着用される便利なアイテムですが、定番ゆえに既存の開襟シャツといかに差別化するかが課題でした。そこで、まずこだわったのが襟の大きさです。
ーー近年の開襟シャツは小襟にデザインされているものが多い印象ですが、「ヘイスティングス」は比較的大きな襟ですよね。
[四方] 僕が思うに、近頃の開襟シャツの襟が小さめなのは“インナー使い”を意識しているから。イタリア系ファッションでは開襟シャツの上にスーツやジャケットを羽織って、シャツの襟をラペルの上に出す着こなしが主流になっています。このとき、襟が小さめのほうがバランスよく見えるんです。しかし、シャツ一枚で着るとなんだか襟元が物足りないな……と以前から感じていました。「ヘイスティングス」については夏向けシャツということで、一枚で着るのが前提でしたから、襟を大きくデザインしているというわけです。
ーーシャツ一枚で映える工夫という点では、背中のインバーテッドプリーツもポイントですよね。
[四方] そうですね。ちょっと変わったデザインに見えるかもしれませんが、ちゃんと歴史的ルーツのあるディテールです。モチーフにしたのは、昔のイギリス人たちが海辺のリゾート地で着用していた半袖シャツ。オープンカラーで開放的に仕立てつつ、背中には動きやすさを高めるためにプリーツを入れていました。さらに「ヘイスティングス」ならではの特徴として、このプリーツがシルエット美をいっそう高める効果をもたらしているということがあります。
ーー実はこの「ヘイスティングス」、シルエットを少しだけAラインに設計しているんですよね。
[四方] そこが密かなこだわりです。グルカショーツ「ホワイトホール」やオフィサーパンツ「ポーツマス」のように腰周りがゆったりとしているパンツには、裾が緩やかに広がったトップスがベストマッチですからね。背中に入ったプリーツは、そんなAラインの美しさを強調する効果があるんです。
ーーそれから、袖先にも一枚で着映えるポイントがありますね。
[四方] カフスの仕様はプルオーバーシャツ「ワイト」と同様にしました。剣ボロやガントレットボタンのないシンプルな仕立てで、ヴィンテージシャツのディテールを踏襲したものです。カフスの芯地は極力薄くソフトにし、袖先の切れ込みを短めにすることでロールアップが簡単に決まるように作りました。
ーースタイリストさんならではの着眼点ですね。
[四方] スタイリングの観点からすると、素材選びも重要です。色のトーンはもちろん、生地の風合いにもこだわってセレクトしたのが、イタリアのアルビニ社が手がけたファブリック。リネンとコットンに、優れた吸水速乾性で知られる「クールマックス」をブレンドしています。薄く軽やかで、サラッとしたドライな肌触りが夏にぴったり。それでいて柔らかなドレープ性があり、優雅な雰囲気も醸し出します。リネン100%だとシワのケアに気を遣いますが、こちらはそれの心配も不要ですね。
ーークラシックにこだわるならリネン100%もいいけれど、ドレープ美や使い勝手を勘案するならこれが最適、という結論でしたね。一枚でサラリと着るシャツとして理想的なバランスを実現できたと思います。
四方さんはこの夏、こう合わせる!
「赤茶シャツ×オフホワイトで、夏のエレガンスを簡単に演出」
シャツ:BRITISH MADE - オープンカラーシャツ/ヘイスティングス ¥20,900-税込
パンツ:BRITISH MADE - オフィサーパンツ/ポーツマス ¥28,600-税込
シューズ:JOSEPH CHEANEY - HUDSON/ハドソン ¥92,400-税込
「今季の新色、ブラウンの『ヘイスティングス』を主役に選びました。普通の茶色よりも赤みがありつつ、テラコッタ(レンガ色)よりもやや渋みのある独特なトーンが特徴です。赤茶色のシャツは着たことがないという方も多いかもしれませんが、実はとても使いやすい色。このようにオフホワイトのパンツと合わせるのが定番で、夏らしい軽やかさと上品さを簡単に表現できます」(四方さん)
■ 四方章敬さん
「LEON」「MEN’S EX」「Men’s Precious」「THE RAKE JAPAN」など、ラグジュアリーメンズファッション誌で活躍中の四方章敬さん。イギリスの洋服に詳しいだけでなく、洋服が持つディテールとその背景を熟知、現代のファッションにまで精通するスタイリストです。
■ BRITISH MADE ORIGINAL WEAR COLLECTION
[キーワードはモダンブリティッシュ]
「イギリスにルーツを持つアイテムを現代のライフスタイルに合うよう再構築する」をテーマに、オリジナルウェアを展開。クラシックの良さを生かしつつ時代に合わせてモディファイすることで、モダンブリティッシュなアイテムを提案していきます。メンズアイテムはスタイリスト四方章敬が監修。
Instagramアカウント @britishmade_ginza