GSIX

Marathon. Women.
Artist Comment

アーティストとして、私は言葉ではなくイメージや素材を使います。複数の作品に同時に取り組むこともあれば、系統的に連続して生まれる場合や、過去の作品に呼応するかたちでアイディアが閃くこともあります。私は自分がやりたいことではなく、自分にできることをやるのです。どんなときでも実行可能と思える選択肢はごくわずかであって、最終的にどのようなものが生まれるのかはスタート時点ではほぼ見えていません。ちなみに昨年は、同時に異なる二つのプロジェクトに取り組んでいました。歩く子どもたちとスプリンターという、ある意味、真逆のプロジェクトです。どちらもとても人間的で強いイメージを喚起する作品ですが、多くの鑑賞者にとってはとても遠く、エキゾチックにすら感じられることでしょう。それは昨年私が描きだしたダンサーや、もっと以前の作品の中の街を歩く人々から派生したものなのです。

ウォーホルは「何かを決断しなければならないなら、どこかが間違っているのだ」と言っています。別の言い方をするなら、何をするかはその前の段階によって決定されており、はっきりと読みとれる道筋があるのだということです。運動場で子どもたちが一列になって同じ方向に歩く。スプリンターが陸上競技場のトラックを走る。男女別々で全員が同じ方向に走る。スプリンターたちの色合いは似たような服装の人々と区別するために対照的なチームカラーであるかもしれない、というように。私は新しいプロジェクトという列車に乗りこんで試行錯誤を繰り返しながら、いつも森羅万象の中にヒントや答えを探しています。また私はLEDのデジタルサイネージを、目につきやすく、動きを表現できて、誰にでも理解しやすい、ある意味、魔法のような表現手段として使用しています。私が濃く太い輪郭で描きだす人間はわかりやすく、ありふれていて、誰の手によるものかを主張しない中立性を備えた絵文字や道路標識などがベースになっています。それは権威的な抑圧のメッセージと私的な夢のような両義性を備えているのです。

とはいえ、ループは無限を意味しているとか、ランナーは人間の理想的な努力の象徴だなどと、一つずつ詳しく説明するつもりはありません。私はシェフがキッチンでやるように思いつくままに遊び、調整し、実験しているのです。

子どもは可愛い――巨大なものは強い印象を与えるが威圧的でもある――色彩は人の心に訴えかける――動きには催眠術のような力がある――競争は人の心をわしづかみにする――一般化すると親密さからは遠ざかるが理解が容易になる、これらが私の作品の特徴になっています。

ある意味、私はいつも自分を出し抜きたいと思っています。たとえば、あらぬ方向を見つめている自分の姿を見るためにものすごい速さでぐるぐる回ってみたりとかね。自分の判断は信用していませんが、自分の観察眼は信用しているのです。

最近、イースター島に行ってきたのですが、本当にすばらしい体験で、アートがどれほど環境と結びついたものであるかを強く再認識することができました。たとえば博物館に展示されている有名なイースター島のモアイ像にも圧倒されますが、藍色の太平洋を背にして神聖なる高台に一列に並んでいるところはまさに絶景です。あれこそ希望と不安、時間と美について物語る人間と自然の完璧なコンビネーションでしょう。ところで、インスタレーションの制作を依頼されたとき、私はそれを既存の作品を披露するチャンスとは考えません。自分がスタジオで取り組む制作と空間との対話が始まるなと考えます。言うまでもなく、それはフレキシブルでなくてはなりません。なにしろ作品はある空間から別の空間へと移されますからね。いずれにせよ、私は各インスタレーションが与えられた環境を最大限、活かせるものにしたいと思っています。低い天井やカーペット敷きのギャラリーは通常そう魅力的とは言えませんが、正解を思いつくことができれば、そこが完璧な場となるケースもあるのです。

今回のアトリウムへの挑戦は簡単なものではありませんでしたが、私はさまざまなアイディアを検討してはVRシミュレーションを行いました。技術的制約や困難は少なくないものの、他にはないようなプラスの点もあります。たとえば各フロアのあらゆる側面から作品を見られること、これは稀有な状況です。この吹き抜け空間には屋外を思わせる雰囲気がありますが、実際には屋内であり、ショップの表示や大勢の人々で視覚的にはとてもせわしない印象を受けます。

私はこれらの条件と向き合い、それをうまく活かしたいと考えました。トライアルアンドエラーを繰り返しながら徐々に最適解にたどりつき、ある日突然うまくいきだした気がしました。ある決断から次の決断へとスムーズに進むのです。たとえば円形ではなく、この建物のように四角形にするとか、箱の内側だけでなく外側にもイメージを描くとか、似ているランナーたちを色で差別化するとか、彼らの異なるスピードが、吹き抜け空間をめぐる果てしないレースになっていくとか。

さらには、いにしえのスプリンターたちの行列や新石器時代の走る狩猟民たちの壁画をモチーフにするとか、LED掲示板にティッカーディスプレイを流すとか、夜の高速道路上での道路工事の保安灯を使うとか。

もちろん他のやり方でもうまくいったかもしれませんが、通常、幾度となくトライアルアンドエラーを繰り返したあとにすべてのピースがあるべき場所に収まるような瞬間が訪れるのです。今回のプランをVRモデルで実際に見たとき、これだと思いました。私はそれをあらゆる角度から見たかったし、みなさんにも見てもらいたかったのです。

それは単純に部分を足した総和以上の効果を生みだしています。基本となる素材から予想される以上のことが起こるのです――実はそのちょっとしたギャップ、予想を超えたところにある、思ってもみなかった領域がなによりも大切なのです。

ジュリアン・オピー 2025年

Marathon. Women. ©Julian Opie

Marathon. Women.

イギリスを代表する世界的な現代美術家ジュリアン・オピーによる新作インスタレーション「Marathon. Women.」が、中央吹き抜け空間に登場。
本作は、イギリスの女性スプリンターをモチーフにした LED映像作品で、7 名のランナーがそれぞれ異なる色とスピードで、宙に浮かぶ四角形のスクリーン上を果てしなく走り続ける様子が表現されています。スクリーンの内側と外側の両面に映像が展開されており、2F から 5F までの 4フロアから、多角的にその動きを鑑賞することができます。「走る」という人間の本能に深く根差した動きが空間全体に広がり、圧倒的な躍動感と没入感をもたらします。

Artist Comment

アーティストとして、私は言葉ではなくイメージや素材を使います。複数の作品に同時に取り組むこともあれば、系統的に連続して生まれる場合や、過去の作品に呼応するかたちでアイディアが閃くこともあります。私は自分がやりたいことではなく、自分にできることをやるのです。どんなときでも実行可能と思える選択肢はごくわずかであって、最終的にどのようなものが生まれるのかはスタート時点ではほぼ見えていません。

Julian Opie Interview

ロンドンのショーディッチにあるジュリアン・オピーのスタジオで、
「Marathon. Women.」について話を聞きました。

Julian Opie Interview

Julian Opie Interview

Works

Work ©Julian Opie
Exhibition at Tokyo Opera City Art Gallery
(2019)
Work ©Julian Opie
Walking in Lisbon.
(2022)
Work ©Julian Opie
Charles. Jiwon. Nethaneel. Elena.
(2024)
Work ©Julian Opie
La Llotja, Palma.
(2024)