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GINZA SIX EDITORS

ファッション、ジュエリー&ウォッチ、ライフスタイル、ビューティ、フード…。各ジャンルに精通する個性豊かなエディターたちが、GINZA SIXをぶらぶらと歩いて見つけた楽しみ方を綴ります。

Appreciating Friends: Inlaid with 90s Flavor

森下 隆太

世は空前の90年代ブーム。いやまあ、空前は言い過ぎでも、どこかで“90’sムードで着こなして”とか“90年代的スポーツMIX”みたいなワードを見かけたことがあるかと。ファッションは巡るというが、90年代の着こなしは今のシーンを代表するもののひとつ。で、その90年代を代表するドラマといえば「フレンズ」で決まり。こちらは正真正銘の空前の一大ブームを巻き起こし、全米視聴者数ランキングにおいて、1994年にスタートした最初のシーズンから2004年の最終シーズンまで、常に年間トップ10に入っていたそう。

舞台はニューヨーク。大人と呼ぶにはまだ早い、かといって年齢的には社会人としての務めも果たさなければならない、そんな年頃の男女6人が、恋愛に友情に(時折仕事に)ゆるーく奮闘する。ヒットの理由として個人的には、シットバックアンドリラックスして見られるゆるさと、モラトリアム的な欲求を解消してくれる点、そして徐々に大人になっていく過程を”あるある〜”と共感させてくれるところにあると思う。その後、ファッションが視聴者を引きつけるようになるまでには、ドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」の登場を待たなければならなかった。

とはいえ、である。とにかく、フレンズの登場人物が着こなすファッションはめちゃくちゃかわいい。めちゃくちゃ今っぽい。王道の90’s。もちろん「フレンズ」ファッションが今っぽく見えるのは、ファッション業界全体のマーケティングのひとつとして、いわばこちらが洗脳された結果ではあるのだが、そんなの関係ねえ。かわいいものはかわいいのだ。

と、前置きが長くなったが、今回はトレンドドンズバの90’s「フレンズ」ファッションをGINZA SIXで探してみようと思う。

まず向かったのは、ニューヨークコレクションの雄である3Fの「rag & bone(ラグ アンド ボーン)」。デニムから始まったブランドらしく、肩肘張らないカジュアルウエアが得意。都会的で、気取ってないけど洒落て見える、つまり着ているだけでこなれ感を演出できる希少なブランドだ。各ブランド右にならえの状態だったビッグシルエットの潮流にも、スパイスとして取り入れるくらいのスタンスを貫き、実にクールだった。

誇張ではなく、ラックのすべてが実に旬で今っぽい。しかも「フレンズ」のメインキャラクターであるレイチェルやモニカの着こなしを思わせるようなアイテムが揃っている。外せないのは、クロップド丈のカットソーやニット類だ。おへそが出るくらいギリギリの短丈トップスにハイウエストのデニムを合わせるのが気分(というか90年代っぽい)。洗いがかかったブルーウォッシュであれば、なおエフォートレス。上部を鮮やかなブルーで切り替えたボーダーのニット(37,000円 ※以下全て税抜価格)はコンパクトなシルエットで、ヘルシーな魅力を引き出してくれる。

ぱっと見はダメージジーンズに見えるパンツ(28,000円)は、実はスウェット(!)。精巧な転写プリント技術を駆使したアイテムだが、これも今にぴったりなアクティブ感を演出してくれる。はき心地もラクそうだし。上からばさっとマニッシュなコートを羽織れば、あなたもレイチェルだ。

裾を切りっぱなしにしたブーツカットジーンズ(28,000円)も、ラフな抜け感があっていい。そう、90年代のファッションを言葉にすれば“力が抜けている”“気取りのない”などがしっくりくる。これはニューノーマルな生活様式のもと、着心地やリラックス感が重要視されたことで、そのムードはますます顕著なものになっていると思う。

隣のメンズフロアでは、アウターに注目。迷いなく手に取ったのはブラックのMA-1(75,000円)。元来ミリタリーアイテムゆえ、丸みを帯びたシルエットのものが主流だが、こちらは程よくタイトなシルエットに、ややかっちりとしたショルダーで、すっきりと着用できる。「ビッグシルエット、飽きました」なんて一歩先ゆくお洒落さんには特におすすめしたい。実はクリエイティブ・ディレクターのマーカス・ウェインライトはテイラード文化が根付く英国出身。どこか保守的なエレガンスが漂うのもうなずける。

襟ボア付きのワークジャケット(75,000円)は両A面のリバーシブル仕様。ネイビーの方でシックに見せるもよし、パキッとしたオレンジのナイロンで遊んでもよしだ。

同じニューヨークコレクションつながりで、次は4Fの「HELMUT LANG(ヘルムート ラング)」へ。デザイナーのヘルムート・ラングは元々ヨーロッパで活動していたが、1997年に拠点をニューヨークに移し(奇しくも「フレンズ」フィーバー真っ只中)、同年セカンドラインである「ヘルムート ラング ジーンズ」を発表。このコレクションラインがめちゃくちゃかっこよかった。カジュアルアイテムをミニマルに見せるという型破りなアプローチ。アイボリーのジャケットに、同色のバギーデニムを合わせるなど、今でこそ当たり前になった街着としてのワントーンスタイルの源流はここにあるのではないかと、過去のコレクションルックを眺めながら思う。

現在の「ヘルムート ラング」も、当時に通じる洗練された空気感を持っている。ここでいう洗練とは、前述したように“堅苦しくないけど洒落ている”というもの。店内を見回しても、やっぱりトップスは短丈のアイテムが多い。店員さんに伺うと、今年はブランドとしてもプッシュしているそう。ピックアップしたシームレスジャージのキャミソール(15,000円)はタートルネックセーターや、シャツワンピースの上に重ねれば手軽にレディなムードを高めることができる。ボトムスはやっぱりブルーウォッシュのデニム(54,000円)がかわいい。

メンズのアイテムでは、グレーのレザーブルゾン(130,000円)に目が止まる。というのも、ロスやチャンドラーといったフレンズにおけるメンズキャラクターの秋冬スタイルで、レザーブルゾン×ニット×デニムの登場率は7割強に上るからだ(自分調べ)。シルエットのみならず、襟やポケットのフラップ、袖口などは直線的に仕上げてあって、ミニマルさを後押しする。探すとなかなかないパステルグレーの色も親しみがあっていい。インナーのニット(47,000円)は、モノトーンをベースにカラフルな糸がミックスされたミドルゲージのもの。スリーブの中央に切れ目があって、曲げるとそこから肘が見えるという往年のディテールを採用している。昔からのファンにはたまらない逸品だ。ボトムスはペインターパンツっぽいデザインのワンウォッシュデニム(35,000円)をチョイス。腰履きすれば、よりハマる。生気の抜けた表情も当時のランウェイを歩いたモデルに敬意を表している(ということにしておく)。

90’sファッションにどっぷり浸って、すっかり「フレンズ」気分。ちなみに、ドラマの中では「セントラル パーク」というカフェが登場し、ここがみんなの溜まり場となる。物語の代名詞の一つだ。GINZA SIXにもたくさんのカフェがある。さて、締めの一杯はどこにしよう。ドラマのカフェはデイリーに使えるカジュアルな雰囲気。「フレンズ」気分で寛げるカフェもたくさんあるけど、いい機会だしラグジュアリーに遊んでみたい。というわけで、空気が変わるといわれる13Fの「GRAND CRU CAFÉ GINZA(グラン クリュ カフェ ギンザ)」へ。

ここは、コーヒーハンターの異名を持つJosé. 川島良彰さんの40年以上にわたる知識や経験を尽くして生まれたお店。農園、樹の選別、精選、焙煎、保管方法や包装形態など、畑から銀座までの全工程に、José. 川島さんのこだわりが詰まっている。店内の雰囲気もめちゃくちゃお洒落。壁一面が高級感のあるレザーで覆われている。いわゆるベジタブルタンニンでなめされた柔らかい手触りのレザーだから、艶っぽくなく、レトロなシャンデリアと相まって、ラグジュアリーだけど落ち着ける、そんな空間になっている。

ビジター利用もできるが基本的には会員制。バーみたいにコーヒー豆をキープして利用する。焙煎豆100グラム入りボトルを1本単位で購入、そのボトルからコーヒーを淹れてもらうシステム(最大6杯)。大体1本1万円からで、高いものだと10万円超えのボトルもあるという。身分に照らすと完全に背伸び。でも、話の種にもなるし、普段は味わえないような特別な体験ができる。ボトルキープは2週間可能で、再来店時の追加料金はかからず、サロンを利用できる。

さっきからさらっとボトルと書いているが、豆が実際にボトルに入っているのだ(!)。特別に卸してもらったというシャンパンボトルの、その開封時から“儀式”は始まっていて、エバンジェリストの長谷川宗佑さんが開栓したての豆のフレーバーを嗅がせてくれる。シャンパンのようにポンとコルクを抜くと、フレッシュな香りが広がって、思わず笑みが。

選んだのは、コロンビアのランチェリア農園で栽培されたもの(1本10,000円)。市場にはなかなか出回らないという、もはや幻となってしまった純正の「ティピカ」種を特別に出していただいた。丁寧にドリップしてもらって…いやいや、サーブされるカップ&ソーサーの美しさよ。こちらは国内外に多くのコレクターを持つ「オールドノリタケ」のアンティークもの。お客さんの雰囲気に合わせて選んでいるというが、僕のものは黄金の龍が白磁を舞い、赤と緑の輝石が随所に散りばめられていて、もはやアート。口にはこぶ前からテンションが上がる。

そして、一口すすると…これが至極上品。チョコレートのような甘みがあって、後から軽やかな苦みが顔を覗かせる、そんな感じ。窓際のカウンターからは東銀座の街並みが見下ろせ、この風景を眺めながら飲むコーヒーは格別だった。ここで写真を撮ると、誰もが気取った感じになるのは間違いない。思わず遠い目をしてカッコつけてしまった。

コーヒーの香りに後ろ髪引かれながら、帰途へ。と、帰る途中で、不思議なコンテナを見つけた。中にはアーティストの玉山拓郎さんによるミニマルでコンセプチュアルなアートが。解説を見ればアートコンテナといって、8人のアーティスト&クリエーターが、様々なサイズのコンテナで“新しい待ち合わせ”をテーマに作品を作り、これが来年の2月23日まで、館内のいろんなところに設置されているという。「18時、〇〇さんの作品の前で」とだけメッセージを打って、スマホをしまい、ケータイがなかった頃の待ち合わせを試してみても面白い。待っている間は、コンテナを彩るアートとにらめっこだ。

今回は、極私的な目線で長々と紹介させていただいた。が、ぶっちゃけ、今はファッションのことなんて考えられない、という方も少なくないと思う。お洒落して出かけていく機会も少なくなった。だから、無理矢理お洒落する必要もないと思う。今はそういう時期。でも、洋服たちは待っている。思い出して欲しい、生地に、仕立てに、シルエットに心惹かれ、店員さんや友人とあーでもこーでもない言いながら試行錯誤を重ねて買った服に、袖を通した瞬間を。お気に入りの服を着た自分がビルのガラスに映って、思わず気分が上がった瞬間を。

服には力がある。決しておおげさではなく、そう信じている。服が持つパワーを享受しに、来れる方は今週末にでも、そうでない方は気が進む時に。そして改めて、目一杯おめかしして銀座の街を歩いてみてほしい。お気に入りの服を着た自分がビルのガラスに映る、そしてそのビルがGINZA SIXであったなら―書き手として、これ以上うれしいことはない。

ART CONTAINER
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Text: Ryuta Morishita Photos: Takanori Hayashi Edit: Yuka Okada(81)

GINZA SIX EDITORS Vol.102

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森下 隆太

ファッション・エディター。1986年熊本県生まれ。講談社「HUgE」編集部、ハースト婦人画報社「MEN'S CLUB」編集部を経て、独立。広告、カタログ、雑誌など、さまざまなメディアで活動中。ファッションのみならず、文学、アート、映画などカルチャーをこよなく愛する。
Instagram GINZASIX_OFFICIALにて配信中

rag & bone

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HELMUT LANG

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GRAND CRU CAFÉ GINZA

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2020.11.24 UP

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