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GINZA SIX EDITORS

ファッション、ジュエリー&ウォッチ、ライフスタイル、ビューティ、フード…。各ジャンルに精通する個性豊かなエディターたちが、GINZA SIXをぶらぶらと歩いて見つけた楽しみ方を綴ります。

A Quiet Spree in Mid-Ginza: A Walk and a Few Drinks Alone

寒河江 千代

東京の街にもっとベンチを! 年に数度帰国する度にそう思う。ひと休みしたり、行先のアドレスを確かめたり。理由はともあれ、世界の都市のベンチに腰掛ければ、行き交う人のリズムや表情が見えてくる。ひとときのベンチタイムは、今いる街と人の在り様をほんの少し客観的に見せてくれるし、と同時に身近に感じさせるから不思議だ。ベンチは、無料であらゆる人に開かれた“小さな街のオアシス”なのに、と。
前置きが長くなってしまったが、GINZA SIX で最初に惹きつけられたのは、館内の多数のベンチだった。各フロアの(多くは吹き抜け空間を囲む)通路に革張りで幅広のちょっと贅沢なベンチがある。そこで買い物の相談をするカップルやひと休みする年配の女性の姿は、街角の自然な風景を見るようだ。私も座り、視線を低くして眺めれば、通路や店舗が一直線に区切られず、店舗ブロックの角も直角でなく、先へ先へと人を誘う路地のような館内のレイアウトに気づかされる。居心地の良さはこんなところにも潜んでいた。

GINZA SIX の散歩の楽しみはベンチのみに非ず。今年の春、館内中央の吹き抜け空間に現れたフランスの現代美術家ダニエル・ビュレンの作品『ムクドリの飛行のように』もその一つ。以前にパリで取材をした際に「場所や空間の特性を作品に取り込む私の原点は、日本の“借景”」と小さくウインクした巨匠のチャーミングな笑顔を思い出す。観る者に自由な発見を託す氏の作品は「さあ、あなたはどう観る?」と問いかけてくる。角度や方向を変えて眺めれば、様々な表情を見せてくれるに違いない。

吹き抜けの空間に、赤と青のストライプの三角旗全1,675枚を垂らした巨大な長方形のフレームを斜めに設置した作品は、そのエアリーな斜面を途中階から眺めれば、階下で見上げた時とはまた一味違う表情に。見る位置や角度により、全体のボリューム感や形状、赤と青の割合が変化し、異なる印象を与えるから面白い。

大空を旋回するムクドリの編隊をフランスの田舎の広大な草地で見かけたことがある。一瞬にして翻り、伸縮を繰り返す群舞のようなムーブメントを「もしも、空の上で間近に見たらこんな感じ?」想像が膨らむ。こうしていると、空に近い大きな空間で無性に深呼吸したくなる。そんな時には GINZA SIX 自慢の屋上庭園「GINZA SIX ガーデン」へ!

開館から1年を経た夏、芝も樹木もしっかり根付き、緑濃く茂る屋上庭園。敷き詰めた石板に水を流す水盤は小さな子供達に大人気。

中央の広場は空に開け、銀座の街路やビルをながめ渡す遊歩道は広大な屋上のぐるりと囲む。さらに、広場の脇には高低の灌木を配す緑の小道が現れて、地上数10メートルの屋上にいることを忘れさせ、散策や読書、木陰でランチと、好きな場所で誰もが思い思いの時間を過ごす。「緑はもちろん、人も生き生きと呼吸する空の土地になってくれたら」と語ったランドスケープアーキテクト、宮城俊作氏の庭園設計の細やかさに得心が行く。

明治初期、日本に初めて現れた銀座の街路樹は、桜や紅葉の美しい日本古来の樹木でまかなわれたという。そんな歴史を背景に、屋上庭園の樹木、草花は全て日本の在来種で構成される。「和」の際立つ日本庭園以外で、在来種のみの庭は極めて稀だ。植物に疎い私は、目にする小花の一つ一つに学ぶ思い(立て看板によると「イヌマキ」の花)。

ベンチのデザインも気になります。膝の当たる部分が曲線を描く座り心地の優しいデザイン。木、灰色の御影石や黄褐色の石など、同デザインで素材の異なるベンチが庭園内に多数!

さらなる散歩の楽しみは、夕刻ならばふらり一人で立ち寄るアペリティフ。とはいえ、夕食の予約なしに、ワイン1杯で立ち去っても気兼ねのない個人店が意外に少ない、東京。長年暮らすパリには名もなきカフェがどの地域にも山ほどあり、カウンターやテラスでその夜の予定を立てることもしばしば。この、束縛のない自由なひとときを求めて、地下2階の「ワインショップ・エノテカ」のカフェ&バーへ。

ショップへ続く通路がそのまま店空間という気の置けなさが、まず特筆。グラスワインリストを覗けば(スパークリングを含む)充実の7種が500円から始まるのも魅力的だ。「毎週水曜に一新します」と、ソムリエでワインセレクターの赤坂宜映さんが注いでくれる辛口のスパークリング(スペインのカヴァ)の、爽やかで深みのある味わいに気持ちが弾む。

壁沿いのテーブル席が埋まっていたら、丸テーブルやカウンターでの立ち飲みでいい。その気負わぬ店構えを(良い意味で)裏切るワインの品質の高さが貴重なカフェ&バーだ。しっとり香りの良い生ハムとパルメザンチーズのおつまみもシンプル・イズ・ベスト。

予約の気兼ねなしの1杯にこだわる(?)ならと、出かけたもう1軒は「ビストロ オザミ」。17時半から19時限定の「フレンチサク飲みメニュー」と、まさに望み通りのサービスのタイトルに惹かれて6階へ。

気さくなビストロの代名詞、赤白の格子のテーブルクロスの上に、さらに純白のクロスがかけられているから「やはり、ディナーの準備では?!」と疑ぐり深い私を他所に「サク飲みメニュー」から選んだ「白身魚のブランダード、メルバトースト添え」(600円 ※以下全て税抜価格)とグラスのボルドーの白「シャトー・デュ・パン」(500円)が運ばれる。

塩ダラを戻し、クリーミーに練るブランダードは、おつまみとはいえ手の込んだプロ仕事。軽い酸味のあるボルドーの白ワインをふっくら感じさせて、いい相性。一人静かにアペリティフ! のはずだったのに、仕事終わりの友人を呼んでここでディナーもいいかな、と様々思いを巡らせるのも自由な夕刻のお楽しみ。

次回のディナーのロケハンに……と自分に言い聞かせ、アラカルトから「国産牛、ホホ肉の赤ワイン煮込み」(2,800円)を注文。ほろりと口溶けるホホ肉に絡む濃厚なソースにほんのり香るバターが食欲を誘う。常時6種を揃えるグラスの赤ワインから、料理の故郷ブルゴーニュの「コート・ド・ニュイ・ヴィラージュ」(1,200円)を添えて。

私のように「心変わり」してディナーに残るお客様にも、席に余裕があればすぐに対応してくれる「ビストロ オザミ」。本格的なビストロ料理とワインと快適なサービスがなんとも心憎い。

一方で、奈良で創業以来300年、工芸技術を活かした暮らしの道具を生み出してきた「中川政七商店」の店舗脇にある、日本の職人たちと協働する工芸品を展示するコーナーも訪れてみたい場所だった。現代の暮らしに生きる職人の手仕事とは?その意義と需要の模索は、今や国籍を問わぬクラフツマンシップの課題と長年感じてきたからだ。

現在は、茶の湯をもっと家で気軽にと、正方形の桐の箱に基本の茶道具全てが収まるようにデザインした「家置きの茶道具箱」をメインに、新ブランド「茶論 見世」のポップアップ空間を展開する(8月1日~10月31日)。茶の湯の作法を学んでいてもいなくても、この箱を取り出せば気軽に一服楽しめるとは、確かにいいアイデア。茶碗から小棗、ガラス製の振出し、一輪挿し、茶巾筒など(個別売り)、コンパクトな佇まいは極めてモダン。

歩いて、時折休んで、また歩けば、昨日まで気づかなかった新しい何かに出会う銀座の散歩に、GINZA SIXは外せないコースになりそうだ。

Text : Chiyo Sagae  Photos : Tomo Ishiwatari  Edit : Yuka Okada

GINZA SIX EDITORS Vol.53

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寒河江 千代

ジャーナリスト。文化・表現社会学を専攻しながらTV、新聞社の制作アシスタントを経て1986年より渡仏。食、建築デザイン、旅を中心に「カーサブルータス」「ブルータス」「料理通信」他で取材・執筆。昨年より「Hanako旅ムック」の編集に携わり、エディター修行中。
Instagram GINZASIX_OFFICIALにて配信中

GINZA SIX ガーデン

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ワインショップ・エノテカ

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ビストロ オザミ

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中川政七商店(茶論 見世)

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2018.08.20 UP

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