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GINZA SIX EDITORS

ファッション、ジュエリー&ウォッチ、ライフスタイル、ビューティ、フード…
各ジャンルに精通する個性豊かなエディターたちが、GINZA SIXをぶらぶらと
歩いて見つけた楽しみ方を綴ります。

Art to Awaken the Senses

川上 典李子

GINZA SIX EDITORS Vol.98

GINZA SIXの中央吹き抜けで現在紹介されている《Prismatic Cloud》を最初に目にしたのは、東京が寒空に包まれていた2月末のこと。アートとデザインの領域で世界的な活躍を続ける吉岡徳仁さんらしいインスタレーションに魅了されてしまい、あちこちから鑑賞してみたくなった。2Fから5Fまで、エスカレーターで何度も上ったり下ったりしながら作品を目にしていると、飛行機の離着陸時に窓越しに空を眺めるのと同じ、心が弾む思いがした。

輝く雲をさらに目にしたいと思いながら、この春は静かに過ぎていった。再訪がかなったのは、夏至を間近に控えた金曜の朝。あいにくの雨だったけれど、迎えてくれた浮遊するアートに私の心はふわりと軽くなっていった。そう、これこそが吉岡作品のマジック……。これまでにも虹のようなスペクトルを放つプリズムの彫刻や「虹の教会」など、光の作品を手がけてきた吉岡さん。

吉岡さんは言う。「美しい自然のかたちを模すのではないんです。心がゆさぶられる自然のエネルギーそのものを、表してみたい」。繊細であると同時に力強さを秘めている自然。時に想像を超える光景に圧倒されてしまうこともある。穏やかなだけではないけれど、だからこそ感じとることのできる一筋の光に私たちの心は大いに動かされ、感覚を呼びさまされる。

角度によっては虹色の輝きも目にすることができる今回の作品は、水や氷の粒子の集合によって雲が形成されるように、一万本に及ぶプリズムロッドで形づくられている。この「光の彫刻」について、吉岡さんはこうも語ってくれた。「光とは生命そのものを象徴的に示す存在です。一人ひとりの輝きが集まることで、世界は明るさに包まれるのではないだろうかと、そんなことも作品制作の際には考えていました」

太陽の光や月の光など、光を表現の素材として、それぞれの記憶や経験、その時どきの心と重なりあうことが大切にされている吉岡作品。吉岡さんは現在、地下鉄 銀座駅の地下通路に長期的に設置されるパブリックアートの制作も進めていて、こちらも光の表現となる。《Prismatic Cloud》と共に目にできる今秋が待ち遠しい。

常に変化し留まることのない自然の醍醐味を、もうひとつのアートで楽しんでみよう。

植物学者でアーティストのパトリック・ブランによる《Living Canyon》は、3フロア分、11メートルの垂直庭園。太陽の光が注がれる崖の頂から深い谷底までの表現となっていて、作品設置から3年が過ぎたいま、植物は伸びやかに育っている。遠くから鑑賞した後、ここでも階段を上ったり下ったりしながら、その細部に目を向けてみた。植物は日本に植生する固有種を含むおよそ75種類。見たことのない形の葉やひゅっと伸びた茎、ころんとして触れてみたくなる球根など、光に包まれた銀座の渓谷は、なんとも豊かな表情だ。

自然に向けられた心によって生み出されるアートとの出会いをさらに味わってみたく、次は「ヴァン クリーフ アンド アーペル」へ。B1Fから2Fまでの階段部分にはメゾンのアーカイブからのデザイン画も展示されるなど、メゾンの精神が凝縮された心地よい空間で、GINZA SIX店に多数揃えられたハイジュエリーを紹介いただいた。

精緻につくられた花びらの角度が光を反射する「フリヴォル」(ネックレス 1,380,000円・イヤリング 1,476,000円 ※以下全て税抜価格、イヤリングは限定店舗にて販売)は、まさに煌めきをまとった花々。また、蓮の花の巧みな描写に加えて2通りの楽しみが用意されている「ロータス アントレ レ ドア リング」(3,468,000円)。造形の魅力はもちろんのこと、自然界の生命力の表現としても魅力溢れるアートだ。

さらには、妖精が集う森を舞台とするシェイクスピアの戯曲『真夏の夜の夢』にインスピレーションを得て誕生した、ヴァン クリーフ アンド アーペルの人気コレクションから「フォリ デ プレ」(ブレスレット 12,120,000円・イヤリング 6,840,000円)。ダイヤモンドとカラーサファイヤによる繊細で豊かな色彩と精緻なセッティングなど、「黄金の手」と称されるメゾンの伝承の技、サヴォアフェールがあってこそ咲き続ける花々の輝き。

ジュエラーの詩心とクリエイティヴィティは、ウォッチでも余すところなく表現されている。「ミッドナイト ポン デ ザムルー」(23,496,000円)はメゾンを代表する、詩情を紡ぐ時の経過を感じるためのウォッチ。この時計に登場するのは、「愛の橋」で待ち合わせをする恋人たちだ。アンブレラを手にした女性が時針で、左側からゆっくり進んでいく。分針の男性は右側から中央へ。12時に出会えた二人は、月明かりのなかで抱擁し口づけを交わし……。二人の心を伝えるかのようなダイヤモンドの煌めきにも心を奪われてしまう。

「まずストーリーがあり、そのために機構の開発がなされています」と店長の竹内淳さん。16世紀から伝えられてきたグリザイユ エナメル技法で文字盤に描かれたパリの夜景では、リモージュホワイトの重なりがもたらす黒、グレー、白の陰影も美しく、見入ってしまう。物語を現実のものとして見せてくれる創造の力に、心からの拍手を贈りたい。

記憶に深く刻まれた風景は、その場の香りとも切り離せない。そして香りや味は、さまざまな景色を思いおこさせてくれる。さて、次は、レストランフロア13Fの「ミクソロジー サロン」へ。驚かされるほど自由な発想が活かされているミクソロジーカクテルの世界。オーナーバーテンダーで世界的に活躍する南雲主于三さんは以前、「ミクソロジーカクテルは総合芸術」と述べていらした。

ここ銀座店では、日本茶をベースとするカクテルが豊富に用意されている。玉露、抹茶、煎茶をはじめ、茶葉の産地、成分、製法、品質、淹れ方による香り、味の違いの探究から生みだされるお茶のカクテルから、この日いただいたのはアルコールを含まない「モクテル」を。カクテルバーテンダーの伊藤学さんのお話をうかがううちに、アルコールを用いるものとは異なるなんとも奥深い開発の過程を知った。長い長い旅のようだ。

その旅は始まりの瞬間から重要であることも知る。「鮮烈で突きぬけるような『お茶感』を表現するにはまず、お茶の厳選に決して妥協しないことです」。茶葉の抽出方法の研究もしかり。さらには一煎目、二煎目、三煎目で味の異なるお茶のブレンディングなど、無限の可能性を一つひとつ探っていく挑戦は、ラボと呼ぶ場で日々なされている。そうして完成されたなかから、つくってくださったのは「青焙じレモネード」(1,400円)。

八女の緑茶の深みと、パイナップルやレモンなど香りも軽快なフルーツの味わい。グラスに添えてくださったのは瑞々しいもみじの葉。茶釜をはじめとするお茶道具や織部の皿も目にできる銀座の「茶室」から、初夏の風景が広がっていく思いがした。

続く一杯は、フルーティな味わいが特色の台湾の高山烏龍茶である梨山茶と、南国のフルーツでつくってくださった「梨山烏龍茶とパッションフルーツのカクテル」(1,400円)。瑞々しくもしっかりとした香りや酸味を味わいながらいただくと、続いてお茶の繊細さが広がり、はっとする。またもや驚かされてしまった。色の重なりから新たな色が生まれ出るように、音と音が重なって思いもかけない旋律が奏でられるように、お茶とフルーツの特色が響きあっている。

「ミクソロジーとは、意外な組み合わせと発見に満ちた世界。味と香りの立体感を絵画や映像さながら視覚的に感じてもらえるよう、研究を重ねています」と伊藤さん。私たちの感覚を目ざめさせてくれるアートの真髄が、ここにもある。

自然界の光に目を向ける吉岡徳仁さんの作品に誘われるようにして、GINZA SIXを巡ったこの日、自然との関わりも大切に、創造の世界を探る表現者たちの作品に出会うことができた。身につけることができる、あるいは、さまざまな景色が心に浮かんでくる、一篇の詩のようなアートにも。
それらの余韻を胸に通りにでてみると、雨は上がり、青空が広がっていた。通りを包む夏の空気が心地よかった。

《 Prismatic Cloud 》吉岡徳仁
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《 Living Canyon 》パトリック・ブラン
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Text: Noriko Kawakami Photos: Sohei Oya Edit: Yuka Okada(81)

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川上 典李子

ジャーナリスト。デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン分野を中心にアート、工芸の作家を取材し、国内外での紹介を続ける。パリ、装飾美術館「Japon Japonismes. Objets inspirés, 1867 - 2018」展ゲストキュレーターを始め、展覧会や作品審査を通してもデザイン、アートの魅力を伝えている。アソシエイトディレクターとして2007年の開館時より企画に関わる21_21 DESIGN SIGHTでは、吉岡徳仁氏を展覧会ディレクターに招いた「セカンド・ネイチャー」展を2008年に開催。
Instagram GINZASIX_OFFICIALにて配信中

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2020.07.08 UP

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