地下から順に、化粧品、ジュエリー、バッグや服、とエレベーターで上がりながら見ていって、遠藤慎は、草壁真菜について何も知らないとあらためて思う。もちろん知っていることはある。おいしいものが好き、旅行が好き、ランニングとテニスが得意、映画はアクション映画が好き、恋人は今はいない。そして来年、就職を機に、はじめてのひとり暮らしをはじめる。でも、それで真菜を真に知っているとはとても言えないと慎は思う。
真菜と暮らしていたのは、彼女が小学校を卒業するまでだ。その後、慎は妻の裕美子と別れ、真菜は遠藤真菜から草壁真菜になった。中学生のときは月に一度、真菜と会い、映画を見たり水族館にいったり、食事をしたりした。高校生になると真菜の希望で三か月に一度ほどになり、大学生になると半年に一度ほどになった。反抗期らしい時期もなく、真菜は屈託もなくなんでも話してくれるが、それが真菜の個性なのか、それとも気遣いなのかも、慎にはよくわからない。
四階まで上がり、慎はクリスタル専門店の前で足を止める。うつくしい曲線のタンブラーやグラスを見ているうち、プレゼントはこれしかないという気持ちになった。
待ち合わせに真菜が指定した時計塔の下にいくと、真菜はもうきていて、慎を見つけて笑顔を見せる。交差点を渡り、ビルの上階にあるレストランに向かう。コースでいいじゃないかと慎は思うが、真菜は渡されたメニュウをじっくりと眺めて、前菜から選んでいく。シャンパンが運ばれてきて、乾杯をしたのち、慎はテーブルごしにプレゼントを渡した。
「ちょっと早いけどクリスマスプレゼントだ。ペアのグラス、来年のひとり暮らし用に」
「え、いいの、ありがとう」真菜は袋から中身を出そうとしたが、前菜が運ばれてきたので、それを隣の席に置いて、「私の部屋でいちばん高価なものになりそう」と笑う。
「ママってさ、好き嫌いがはっきりしてるでしょ。着るものも、家具とか食器とかも、統一してるっていうか。こういうのママは嫌いそうだなっていうの、わかるでしょ?」前菜を食べながら、真菜は話し出す。たしかに裕美子は昔からこだわりが強い。幼い真菜がどんなにほしがっても、キャラクターの着いた服や文房具は買わなかったし、慎の私服も裕美子が選んでいた。
「ママはセンスがいいからずっとまかせてきたけど、なんだか私は自分が何が好きなのか、わからないんだよね。だからさ、ひとり暮らしをはじめたら、ママが嫌いそうだとか、そういうことはいっさい考えずに、派手でも安っぽくても、好きなものだけ部屋に置こうと思ってるんだ」
そんなことを思っていたのかと、不意を突かれたような気持ちになり、
「パパの部屋みたく、ぐちゃぐちゃになるぞ」と慎は冗談めかして言う。
「ぐちゃぐちゃにして暮らしたいんだよ。そこから好きなものを見つけていく」
前菜の皿が下げられ、「ワイン飲んでいい?」と真菜が訊き、「もちろん」と慎はワインを注文する。
「でもぐちゃぐちゃな部屋でも、今日もらったグラスはていねいに使うからね。割らないように注意して」
「割ってもいいぞ、また贈るから」そう言って、ふと慎はショッピングビルを下から順に上がっていった時間を思う。真菜は何が好きか。何なら喜ぶか。ピンクのドレスが着たいと泣いた子どものころから、徒競走で一番になって飛び跳ねていたとき、中学の制服姿であらわれたとき、会うのは三か月に一度にしたいと言いにくそうに言ったとき、大学生になってはじめて化粧をしてあらわれたとき、知っている真菜を思い出し、その真菜のよろこぶ顔を思い浮かべて歩いた短い時間は、なんと幸福だったことだろう。プレゼントを贈るというのは、贈る側にもこんなよろこびを与えてくれることをはじめて知った気持ちになる。
「真菜がひとり暮らしをはじめたらママはさみしいだろうから、今度、三人でごはん食べよう」ふと慎は言い、
「そうだね、赤提灯とか連れていってあげようよ、いったことないだろうから」真菜は笑う。
真菜の隣の席に置かれた紙袋に入っているのは、品物ではなくて、ともに過ごした時間と、これからともに過ごす時間のようにも、慎には思える。
いつもさまざまなことにアンテナを張り巡らせるファッション賢者たち。個性的かつセンスが光る条件をクリアすべく、ここからは人気ブランドの定番に加え、ユニセックスで使用できるアイテムなどを幅広くピックアップ。
贈る相手に合わせてセレクトしたいビューティグッズは、今年もメイクアップアイテムからスキンケア、フレグランスまで実力派プロダクトが勢ぞろい。日々美しさを追求するあの人へ、スペシャルなギフトを届けたい。
スポーツアイテムは機能性だけでなく、デザイン性も重視したい。ここではアクティブなあの人にぴったりなファンクショナルなアイテムをピックアップ。これから新しいスポーツを始めようとしている人にもぜひ!
多様な生活様式が求められる今、これまで以上に豊かな暮らしを実現するために欠かせない“質のよいもの”。快適かつおしゃれなライフスタイルにこだわりを持つ人へは、センスが光る厳選のインテリアグッズを贈ろう。
クリスマスを美味しく彩る
こだわりのギフトをグルメなあの人へ。
ホームパーティーの計画を立てるなら、テーブルを華やかに彩るグルメギフトをセレクトしたい。ゲストに喜ばれるGINZA SIXの厳選グルメを、食にこだわるファッショニスタ&クリエイターがリコメンド。
HONMIDO
[ B2F ]TEA FORTĒ
[ B2F ]HOTEL CHOCOLAT
[ B2F ]BICERIN
[ B2F ]L’ABEILLE
[ B2F ]